東海道新幹線放火事件
何とも悲惨な事件が起きてしまった。
6月30日午前11時40分頃、新横浜~小田原間を走行していた『のぞみ225号』の一号車車内で、ガソリンの様な液体をかぶって自ら火を放ち火災となった。
当初はテロではないかという噂もあったがどうやら自殺の様で、この事件で巻き添えになった女性が一人亡くなったほか、多数の負傷者が発生してしまった。
被害に遭った方には申し訳ないが、思いの外被害は少なかった様に思う。
5リットルを越えるガソリンに火を着けると一瞬のうちに大きく燃え広がり、現場検証によると車両の中心付近まで炎が広がったとされる。
車内の映像を見ると、天井から溶けたプラスチック上の物が垂れ下がり、座席は燃え落ちて金属がむき出しになっている状態だが、自力走行が可能な状態だった。
これはこれまでに地道に防火対策を採り続けた結果が出たといえる。
鉄道車両の防火対策が重要視されたきっかけは1972年11月6日未明に発生した、北陸本線敦賀駅-南今庄駅間にある北陸トンネル内で発生した列車火災事故で、乗務員1名を含む30名が死亡し714名が負傷した。
この事故がきっかけで次の様な車両の防火対策が進んだ。
・内装材をアルミ化粧板に取り替え
・ガラスの破損による隣の車両への延焼防止のため、貫通扉の窓ガラスを網入りガラスに取り替え
・隣の車両への延焼防止のため、貫通幌の難燃材料化
・寝台車と寝台列車に連結する食堂車の難燃化
・車内放送設備の整備と車内の非常ブザー等の使用制限を明示するためのステッカー貼付
・車両に消火器を備え付け、もしくは増備
・寝台車に煙感知器の取り付けと非常用携帯電灯及びメガホンを備え付け
床下にディーゼルエンジンを積んだ寝台車への自動消火装置の取付け
また、一時期はJR東日本のE231系電車の様に貫通部の扉のない車両も製造されていたが、2003年2月18日に韓国の大邱広域市地下鉄公社1号線で、192人が死亡、148人が負傷する放火事件が起こり、車両間の取り付けが義務づけられた。
N700系新幹線車両も徹底した防火対策が取られている。
座席のシートは難燃性の合成繊維が使用され、『着火すると不燃性のガスが発生し酸素を遮断する』、『リン系化合物をポリマーに共重合させる手法で、炎に触れると表面が速やかに炭化し、繊維を覆ってそれ以上の燃焼を防ぎ、同時にリンも空気を通さない物質(ポリリン酸)に変わり、同じく繊維を覆ってそれ以上の燃焼を防ぐ』、『分子同士が強く結びあったものや架橋結合でネットワークを形成させた、芳香族系の剛直性の高い高分子を使います。熱分解が生じにくいため、可燃性ガスの発生を抑える』などの対策が取られている。
日本化学繊維協会
他の内装品も徹底した防火対策がとられていたため、乗務員が消火器だけで消し止める事が出来た事になる。
韓国の大邱広域市地下鉄放火事件では、飲料用ペットボトルの中からガソリンを振り撒いて放火し火災となったとされるが、放火としては今回の事件の方がガソリンの量が多量だったのにもかかわらず、被害は小規模となっていて防火対策がいかに重要か判る。
それとガソリンによる大きな火災に消火器で消し止めた乗務員の行動も賞賛したい。
消火を行った運転士は事故後に小田原まで運転を行った後に病院に搬送され、同じく消火作業や乗客を誘導した車掌二人も病院に搬送されたという。
難燃化といったハード面だけでなく、乗務員の対応が事故を最低限に抑える事ができたと思う。
今回の様な事件やテロ対策として、航空機の様に登場時に荷物検査という話もあるが実際には困難と思われる。
THE PAGEに手荷物検査を実施した場合の費用等の資産が掲載された。
新幹線乗り場で空港並みの荷物検査をすると考えると、1人の検査にかかる時間は約30秒。駅に手荷物検査レーンを1つ作ると、1分で2人が通過できるので、1時間では2人×60分で120人を検査することができる。
東海道新幹線の1日平均乗車人数は、東京駅で9万3千人(2013年度)だ。このうち10%強がピーク時の1時間に乗車しているとして、東京駅からピーク時の1時間に乗車する乗客数は約1万人と想定される。盆暮れ、大型連休や正月などは、1時間あたり約1万2千人とみられる。
このうち80%の人が手荷物を持っているとして、手荷物検査が必要なのは東京駅で1万2千人×80%=9600人。この人数を1レーンで検査できる120人で割ると、東海道新幹線だけで80レーンが必要な計算となる。
THE PAGE
また、実際に実施した場合の費用で運賃が500円~1000円程度値上がりすると想定している。
安全策としては確実だろうが実施するのは困難と思われる。
JR東海ではこれまでデッキ部にのみ取り付けられていた監視カメラを、客室内やデッキの通路部にも取り付け監視を強化するという。
社内には現在非常時の通知用にSOSボタンが取り付けられているが、これを押すと列車が非常停止するため火災時には使用しない様に表示があり、火災時には乗務員に連絡する様にとの事だが実際の火災時には少々心許ない。
SOSボタン以外に火災報知スイッチも取り付けるべきと思うが。
今回の事件を元により一層の安全策を採る事を望む。
それとネット上では犯人の家族に対しての損害賠償請求などが書かれているが・・・・
日本の場合、未成年者や成年被後見人以外の成人の場合、損害賠償請求は本人に対してしか出来ない。
本人死亡の場合だが、死亡者に対して損害賠償請求をすることになり、認められたら負の資産として法定相続人が相続するわけだが、相続放棄をされたらそれまで。
損害賠償請求は可能だが、実際に取り立てできるかは別問題という事になる。
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