無責任でしょ、食塩摂取

 

 『過度な減塩は危険&体に害!「塩は高血圧の原因」はウソ?精製塩はダメ、良い塩とは?』という記事を見かけた。

推奨している厚生労働省の職員が本当に一日8グラム以下の塩分摂取で過ごしているのかどうか聞いてみたいところです。さらに、50年以上にわたって続けてきた減塩運動の効果はどうだったのかというと、高血圧の患者は減っていないどころか、増えているというのが悲しい現実です。

 日本人全体の血圧は減少傾向にある。

 日本人の食塩摂取量

 日本人の血圧  
 (出所)社会実情データ図録

 食塩の摂取量を見ると減少傾向にあった摂取量が、1980年代の後半から1990年代の後半にかけて一時的に増加している。
 この時期の日本はバブル期ピークで、食生活も贅沢を極めた時期で食塩の摂取量も増えていたと思われる。
 日本人の血圧の変遷を見ると、食塩摂取量と血圧の相関性が見られ、食塩の摂取量が一時的に増加した1985年代の後半から1990年代にかけて、男性を中心に血圧も増加しているのが判る。
 高血圧患者が減らないという理由は、高齢者の比率が増加しているのと、高血圧の基準が変更された事にある。
 血圧の正常値の規準は1999年までは70才未満で収縮期血圧160mmHg未満-拡張期血圧95mmHg未満とされていたが、2000年に60才未満が130mmHg-85mmHg未満、70才未満が140mmHg-90mmHg未満、80才未満が150mmHg-90mmHg未満、80才以上が160mmHg-90mmHg未満に、2004年にすべての年齢で140mmHg-90mmHg未満となった。
 この変更により以前は正常といわれていた人が高血圧とされるケースが発生した。
 一部の週刊誌等が基準値を下げて患者数を増やし医療費を増やすと言う批判もあるが、以前は年齢だからやむを得ないといわれていたのが、薬剤等で血圧をコントロール出来る様になったという事。

また、イギリスの医学誌「ランセット」に発表された論文で、食塩の摂取量と病気の罹患率の関係を調査したものもあります。それは、男性、女性を別々に食塩摂取量の少ない順に4つのグループに分けて、さまざまな病気の罹患率を比べるというものです。その結果は、食塩の摂取量と高血圧には、関係性は見られませんでした。逆に、心筋梗塞など心臓血管疾患による死亡率は、食塩摂取量の最も多いグループが最も低く、食塩摂取量が最も少ないグループが最も高いという結果が出ているのです。健康な25~75歳の成人で、約21万人を対象としたアメリカの「国民栄養調査」から得たデータですので、ある程度信頼してよいと思われます。

 食塩摂取量が血圧や疾病に影響するという調査や研究は数多くある。
 イギリスでは2003年より国が主導し減塩を推進し、8年間でイギリス人の食塩摂取量が9.5gから8.1gと約15%減少した。
 イギリスのウルフソン予防医学研究所のGraham MacGregorらが2014年4月14日にオンライン医学誌「BMJ Open」報告した論文では、食物中の塩分量を15%低下させたところ、心疾患による死亡率は40%、脳卒中による死亡率は42%低下したという結果だった。
Salt reduction in England from 2003 to 2011: its relationship to blood pressure, stroke and ischaemic heart disease mortality

 食塩摂取を適度に減らすと、全ての年齢集団や民族集団において、高血圧の人でも正常血圧の人でも、程度の差はあっても、血圧が低下するという報告もある。
A Global Brief of Hypertension  
 多くの国では一日に9gから12gの食塩を摂取しているが、WHOは大人が2000ミリグラム未満のナトリウムまたは日当たりの5g以下の食塩の摂取を勧めるとしている。

 一方で、日本でも話題になった米国医学研究所(IOM)の2013年の見解で、米国で推奨される1日当たり塩分摂取量の5.8gなどの数値には、「エビデンスがない」というのがある。
 米国医学研究所
 内容としては減塩そのものを否定しているわけでは無く、「中等~重度の心疾患で治療を受けている患者では、低い ナトリウム の摂取量( 毎日 1,500 ~ 2,300 m)が、病気の経過に悪影響があることがエビデンスで示されている」とし、塩分量と健康の関係にはさらなる研究が必要としている。
 これに対しアメリカ心臓協会(AHA)は、IOMの見解が発表されると速攻で反論をしていて、現在 高血圧 にかかっていない人々は毎日1,500 mg 未満 のナトリウム(食塩換算3.8g)の摂取が望ましいとしている。
 アメリカ心臓協会
 ま、いずれにしても食塩の消費量が一桁にならない日本では無関係な論議かもしれないが・・・

 元々、日本人には食塩受感性高血圧に関連する遺伝子を持つ率が高いという研究もある。
 本態性高血圧症の発症、進展に関与する遺伝因子の解明

AGT/T235アリルが81%(白人では45%)、ADD1/Trp460アリルが57%(白人では15%)、CYP11B2/T-344アリルが69%(白人では50%)、GNB3/T825アリルが52%(白人では25%)と全て有意(p<0.01)に高値であった(文献#2,404061417)。いずれの遺伝子多型も食塩感受性を高めると推定され、日本人は食塩感受性の強い民族であることが再認識された。

 減塩と高血圧(特に夜間高血圧)

有名な遺伝子多型にアンジオテンシノーゲンのcodon M235Tがあります。Tアレルは血圧上昇遺伝子、これに対して対立遺伝子Mアレルは正常血圧遺伝子と呼ばれます。Tアレルは貧血圧の発症頻度が高い遺伝子で、食塩感受性や食塩嗜好性を支配します。日本人でTアレルの頻度を研究した成績からはTアレルが80%を占めることが知られています。つまり、食塩過剰になると、日本人の10人に8人は容易に高血圧になることを意味します。

 塩分摂取による高血圧発症にエピジェネティクスが関与することを解明

 日本人のどれくらいが食塩受感性高血圧かというと・・・・・
 欧米の人と比較すると、日本人には食塩感受性高血圧が多いと言われるが、まだ詳細なデータは無い。 オムロンヘルスケア
 食塩の血圧応答に関する文献研究 一塩分給源としての味噌の評価をめぐって一 
 これによると『日本人(白人)の血圧正常者の15~26%,高血圧(あるいは境界型高血圧)患者の30~50%が食塩感受性とされる。
食塩と高血圧によると、高血圧患者において減塩療法が有効なのは,食塩感受性高血圧であり,全高血圧患者の35~40%としている。
 となれば減塩は高血圧の有効な治療方法という事になる。

 海水の組成は驚くほど人体のそれと似ているのですが、海水をそのまま飲めばいいわけではありません。そのまま飲んでしまうと、マグネシウムやカリウムなどのいわゆる「ニガリ成分」を体内に摂りすぎてしまうからです。それを回避するために昔から製塩という技術があったのでしょう。製塩のプロセスで、余分なニガリ成分を少し落として、理想的な塩がつくられてきました。

 体液と海水の組成はあまり似てないけど。
 海水
  ナトリウム :10.8g/l
  マグネシウム :1.291g/l
  カルシウム :0.415g/l
  カリウム :0.399g/l
  出典:公益財団法人塩事業センター 
 細胞外液
  ナトリウム  :145mmol/l →145X23mg=3335mg 3.335g/l
  カリウム   :4mmpl/l  →4X39mg=156mg  0.156g/l
  カルシウム  :1.8mmol  →1.8X40mg=72mg 0.072g/l
  マグネシウム :1.5mmol/l →1.5X24mg=36mg 0.036g/l
  出典:水・無機質の働き   

 ニガリ抜きをしたのは、ニガリの成分の塩化マグネシウムの潮解性で塩がべと付き非常に使いづらかったため。
 子供の頃健在だった曾祖母の話では、曾祖母の若い頃(明治の初期)は二ガリ抜きした塩も売られていたが、ニガリ抜きしていない塩が普通だったとの事で、湿気ているどころかべと付いていて壺や桶に入れないと保存が出来ないくらい使いずらかった。
 カマス(藁で編んだ袋)に入れられた塩が桶に詰められ店に運ばれた。
 春になるとそれを買って帰り、塩の入ったカマスは物置の天井からつるされ、カマスの下には桶を置いていた。
 梅雨時や夏の湿気にあった塩は、湿気で溶け出したニガリが下の桶にしたたり落ち、秋になると多くのニガリが抜けた塩はカマスの中ですっかり固まった状態になる。
 その塊を砕いて、熱した鉄鍋で煎りあげると塩化マグネシウムが非水溶性の塩基性塩化マグネシウムや酸化マグネシウムに変わり、サラサラの焼き塩になりそれを塩壺などに入れて使った。

結論としては、「塩化ナトリウム99%以上」と書いてあるような精製塩を摂ることを一切やめて、塩化ナトリウム以外のミネラル分の比率が5~10%程度の塩を、体の欲求に応じて、適度に摂るべきでしょう。筆者は、そのくらいのミネラル分の比率が最も食用に適していると考えています。ちなみに、ほとんどの加工食品に使われている塩は劣悪なもので、摂ってはいけないということもご承知おきください。

 結論として、塩に含まれるミネラルではマグネシウム以外は全く不足で、塩でミネラルを補うのは無理。
 また、イオン交換法で作られた食塩は劣悪とか言われるが全くの言いがかりで、海水中に含まれる重金属や有害物質をほぼ完璧に除去出来るのはイオン交換法だけで、イオン交換法で作られた食塩は安全と言う事になる。
 宮古島で製造される食塩で雪塩という商品がある。
 雪塩はユニークな製造方法で作られ、海水淡水化装置の廃液に多くの塩分が含まれるのを利用し、熱した金属板に廃液を吹き付けて水分を飛ばし製塩し、高温で加熱し焼き塩の状態になっている。
 そのため雪塩の成分構成は海水とほぼ同じになっている。
 雪塩を一日に10g使用するとして、食塩から摂取できる主要なミネラルは
  ナトリウム  3030mg
  マグネシウム 281mg
  カリウム   85.9mg
  カルシウム  62.5mg
  鉄     0.161mg
  マンガン  0.0273mg
  亜鉛    0.0185mg
 となりマグネシウム以外は全く不足していて、食塩で必要なミネラルを摂取する事は不可能ということになる。

 『先進国で食塩摂取が一番多い日本が、なぜ長寿国なのか』とのタイトルのサイトがある。
 食塩摂取量が多いのに長寿なのは食塩摂取は直接関連しないと言いたいのだろうが、日本人の寿命が延びたのはつい最近の事。
 厚生労働省完全生命表 
 この中の0才の平均余命が平均寿命と言う事になる。
 これによると日本人の男女の平均寿命が50才を越えるのは昭和22年で、日本人が長寿になったのはつい最近という事になる。

塩分は体に悪いのではなく、要は出すことなのだ。塩分は十分にとって体内で利用し、汗や尿で体の外へ排泄すればよいのである。というのは、塩分(特に化学的な合成塩の食塩ではなく、約100種類のミネラルを含む自然塩)には、新陳代謝を促して体温を上げたり、体内の有害物を解毒したりする作用があるからである。

 この手のサイトに化学的な合成塩とか化学塩といった非科学的な単語が出てくる。
 確かに塩酸を水酸化ナトリウムで中和すると塩化ナトリウムが出来るのは間違いない。
 しかし、その様にして作られた塩は非常にコスト高になり、市場に流通流通するはずは無い。
 あえて言うなら売られている食塩はすべて物理塩と言う事になる。
 イオン交換法であれ塩田法であれ、海水中の塩分を物理的に濃縮しているのは同じ事で、有害物質をほぼ排除出来るのはイオン交換法だけで、イオン交換法の食塩は非常に安全な食塩と言う事になる。

 体内でナトリウムと拮抗するのはカリウムで、ナトリウムを排出する作用がある。
 日本人の摂取量は男2384mg、女2215mgと言われているが、アメリカ高血圧合同委員会第6次報告では高血圧予防のために、3500 mg/日を摂取することが望ましいとしている。
 カリウム   
 また、WHOも90mmol/日以上のカリウム摂取を推奨している。 1mmol=39.09mg  39.09X90=3518.1mg  カリウム摂取量が多いほど血圧が低く、脳卒中リスクも低い
 いわゆる天然塩とかに含まれるミネラルはマグネシウム以外は絶対量が不足で、天然塩だけで必要量を摂取するのは絶対に不可能という事になる。
 精製塩の摂取が危険で、いわゆる天然塩の摂取は大丈夫という主張は無責任極まりない事になる。
 ま、日本人は高温下での重労働や激しい運動をする人以外は減塩した方が無難と言う事になる。

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