フードファディズム・牛乳 其の参

 

 カルシウム

 最近トンデモ系と言われている新谷弘実氏の著書「病気にならない生き方」がある。
 その中に、牛乳を飲んだら牛乳のカルシウムが体内のカルシウムを減らしてしまうという記述がある。
 その理由として「牛乳を飲むと、血中カルシウム濃度が急激に上昇する、体は血中のカルシウム濃度を通常値に戻そうとする恒常性コントロールが働き血中の余剰カルシウムを腎臓から尿に排泄してしまう」といった無茶苦茶な事が書かれている。
 もし多量のカルシウムを摂取したとしても尿中に排泄されるのは余剰な分だけで、それを排出したら排泄量を減らし、血中カルシウム濃度が8.4~10.2mg/dlになるようバランスが取られている。

 血中カルシウム濃度に係わる物質は、副甲状腺ホルモンとビタミンDで、血液中のカルシウム濃度が下がると副甲状腺ホルモン量が上がり
 1)骨より血液中にカルシウムを放出させる。
 2)腎臓から尿に排出されるカルシウム量を減らす。
 3)ビタミンDを活性化して腸管からのカルシウム吸収率を高める。
 また、逆に血中カルシウム濃度が上がると副甲状腺ホルモン量が下がる事により、血中カルシウム濃度を下げようとする。
 こうして血液中のカルシウム量をコントロールしているわけで、牛乳を飲むと体内のカルシウムを減らすと言う事は無い。
 カルシウム濃度の異常/メルクマニュアル18版  
 カルシウム/メルクマニュアル医学百科家庭版  
 栄養相談Q&A/公益社団法人日本栄養士会 

 ちなみに「病気にならない生き方」に関して、牛乳乳製品健康科学会議が新谷氏に公開質問状を出していて、その回答も公開されているが回答内容は科学的根拠の薄い内容となっている。
 牛乳乳製品健康科学会議・記者発表資料 
 牛乳乳製品健康科学会議の見解 

 牛乳のカルシウムは乳糖と結合していて、ラクターゼの欠乏している日本人は牛乳からカルシウムが吸収出来ないと書いているサイトも多い。
 たとえば・・・・
 

 しかし、牛乳に含まれるカルシウムは乳糖と結合して存在していますので、乳 糖を「ある程度」しか分解できない日本人は牛乳からカルシウムはほとんど吸収できません。それなのに日 本では牛乳のカルシウムは他の食品よりも吸収されやすいというような常識がまかり通っています。乳糖を 分解する酵素、ラクターゼの活性が高い人種は世界でもわずか20%で、ラクターゼ活性(乳糖不耐症)が 低い人種の方が多いのです。
 日本人は乳糖を分解する酵素を持っていないから乳糖と結合しているカルシ ウムはほとんど吸収することができないと言うとほとんどの人は信じません。
 石鹸・自然食品・健康雑貨の専門店MITOMOコラム  

 牛乳のカルシウムは乳糖と結合してるというのは間違いで、リン酸カルシウムの形でタンパク質のカゼインと結合してカゼインミセルを形成している。
 チーズAtoZ 
 乳糖の分解酵素ラクターゼ(β‐ガラクトシダーゼ)の欠乏とカルシウムの吸収は全く別問題。
 ちなみに、カゼインが体内で消化されることにより生成されるカゼインホスホペプチド(CPP)がカルシウムの吸収を促進すると言われ、CCPを関与成分とした特定栄養食品がある。
 国立健康栄養研究所/カゼインホスホペプチド   
 もっとすごい事を書いているサイトもある。

 しかし、実際には、本来、牛乳を摂取すべき子牛にとっては理想的な食品だが、人間、特にアジア人(成年)は牛に含まれる乳糖をカルシウムに分解する分解酵素が体内で分泌されないために、うまく吸収できないケースが多いのだ。
 食品業界がばらまく「社会毒」~牛乳、人工甘味料、ダイエット食品は危険? 

 
 乳糖を分解しても元素のカルシウムにはならないんだが・・・・・・
 ちなみにこのライブドアニュースのネタ元はおなじみのビジネスジャーナルで元記事は

 人間、特にアジア人(成年)は牛乳に含まれる乳糖を分解するラクターゼという分解酵素が離乳期以降は体内で分泌されないために、うまく吸収できないケースが多いのだ。
 元記事 

 と修正されているが、転載先ではオオボケ記事がそのままになっている。
 ちなみにこの記事のネタ元になっている「社会毒」研究』(内海聡/三五館)の著者の内海氏だが、新谷氏と共にトンデモ本連作者としている方もいらっしゃいます。
 楽園はこちら側  

牛乳のカルシウムとリンの比率が悪いとの説もある。

 なぜそれほどまでに牛乳中のカルシウムは吸収できないのでしょう。
 その原因の一つは、牛乳がカルシウムだけでなく「リン」を多く含んでいることです。牛乳の中のカルシウムとリンの比率は2対1よりもやや大きいのですが、リンは腸管内でカルシウムと結合するためにカルシウムの吸収を阻害することがあるのです(以前のblog参照)。
 それゆえに多くの栄養学者がカルシウムの比率が2対1以下(3対1とか4対1)の食品だけをカルシウム源として利用すべきだと主張しています。たしかにただでさえ加工食品を摂る現代人はリンが過剰なので、カルシウム源としてリンが少なめの食品を選ぶべきかもしれません。
 Think Health No72牛乳は適切なカルシウム源ではない 

 食品のカルシウムとリンの比率だが、代表的な物を挙げると・・・・ 

 これによると牛乳のカルシウム/リンの比率は1.18となる。
 上記の日本栄養士会によると『リンの含量が牛乳では好ましい比率(カルシウム:リンが1:1)である』としている。
 それではカルシウムの吸収が良好なカルシウムとリンの比(Ca/P)はどれくらいかというと、2:1~1:2が良好としている。
 臨床栄養1994.6 カルシウム源の差によるカルシウム吸収率の比較検討(1)
 これによると牛乳のカルシウム/リン比は、カルシウム吸収に最適な比率と言う事になる。

 そしてもう一つの理由は、牛乳や乳製品は、動物性たんぱく質を非常に多く含む食品ということです。
 これも以前のblogでも述べたので、動物性たんぱく質が体内で酸性物質を大量に生じさせることはご存じだと思います。動物性たんぱく質が非常に多い牛乳や乳製品を過剰に摂取すると、骨からカルシウムが溶け出す「脱灰」が促進されます。
 たんぱく質代謝の過程で生じる尿酸や硫酸のために、血液を大きく酸性に傾けてしまい、それを中和するのにカルシウムが動員されてしまうのです。

 その他、牛乳や乳製品は、カルシウムとマグネシウムの比率が悪く、マグネシウムがほとんど含まれておりません。牛乳を多飲し、乳製品を多食するという生活を続けていれば、食事全体のカルシウムとマグネシウムの摂取比率が大きく崩れた状態になり、マグネシウム不足になります。
  Think Health No72牛乳は適切なカルシウム源ではない


 牛乳は他の食品と比べてタンパク質は少なく、牛乳を余程大量に飲まない限り牛乳のタンパク質でカルシウムが消費されるとは思えない。
 ちなみにマグネシウムに関しても、牛乳だけ飲んでいるわけでは無く、トータルの食事のバランスが重要。

 Think Health等、牛乳はリンの量が多いのでカルシウムの摂取に向かないと主張してるサイトが多く見受けられるが、実際の成分も調べないで他のサイトや資料を丸写ししているとしか思えない。

 ところで実際に牛乳のカルシウムの吸収率はどの程度ということになるが、カルシウムの吸収に関する女子栄養大学の上西らの研究がある。
 これは19才から29才の健康な女性9人を使った実験で、尿と便をすべて採取し、摂取したカルシウムと排泄したカルシウムの収支から、精度の高いカルシウムの吸収量を測定している。
 これによるとカルシウムの吸収率は
 牛乳 39.8%±7.7%
 小魚 32.9%±8.4%
 野菜 19.2%±10.8%
 となっている。
 日本人若年成人女性における、牛乳、小魚(ワカサギ、イワシ)、野菜(コマツナ、モロヘイヤ、オカヒジキ)のカルシウム吸収率 

 牛乳のカルシウムが吸収出来ないというのはデマと言って良いだろう。

 牛乳とは直接関係ないが「ミルクアルカリ症候群」というものがある。
 これは20世紀初頭に胃潰瘍の治療法として、牛乳とマグネシウム製剤を30分あけて1セットとし、1時間おきに繰り返して飲むというものだった。
 マグネシウム製剤による胃酸の抑制と、牛乳などによる栄養の向上と粘膜を保護することを期待した治療法で、当時としては有効な治療法として考えられていた。
 ところがこの治療を受けた患者のなかに、嘔吐や意識障害まで起きるケースがあり、調べてみると高カルシウム血症が原因の症状と判った。
 つまり牛乳の摂り過ぎと胃酸中和剤(マグネシウム→アルカリ)によって起きることから「ミルクアルカリ症候群」と呼ばれた。

 この治療法が廃れて「ミルクアルカリ症候群」は激減していたが、最近は再び増える経口があるという。
 近年,骨粗鬆症の管理および予防に炭酸カルシウムが頻用されるようになり,とくに高齢者で長期間にカルシウム製剤を処方されている例が多く,かつ慢性の便秘に対して弱アルカリであるマグネシウム含有緩下剤を処方されている例も多い。
 そのため「ミルクアルカリ症候群」が報告されるようになったという。
 ミルクアルカリ症候群により高カルシウム血症性クリーゼを来した1例
 『過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如し』といったところか・・・・

 続く

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