『水素水商売』は美味ちいか????

 

 ここのところ、水素水に関して賑やかになっている。
 きっかけは産経新聞の『美容、ダイエットと何かと話題の「水素水」 実はかつてブームを巻き起こした「あの水」と同じだった…』が、口火を切った様に思う。
 水素水は医薬品では無いので効能をうたう事は出来ないが、ネット上では「ダイエットに効果がある」、「活性酸素を除去する」、「がんを予防する」などとする情報が氾濫している。
 この記事の中で、東京大の唐木英明名誉教授(薬学、獣医学)は

 「高濃度の水素といっているが、それでも水素濃度が低過ぎる。
 飲んだ水素は胃の中で消えてしまうだろう。
 仮に、水素が血流に乗って体の組織に到達したとして、それがどのような作用を発揮して疾病治療につながるかの説明がない」とし、「水素には何かの効果があるかもしれない。
 しかし、市販の水素水に効果があるかと言われれば、ゼロだろう」
 と、手厳しいコメントを出している。

 その記事の抗議する形で、日本医科大の太田成男教授が産経の紙上で反論している。
 産経ニュース記事に日本医科大の太田成男教授が反論 
 太田教授のグループが、脳虚血再灌流処理によってストレスを与えたラットにH2ガスを吸入させる事により、生成されたヒドロキシルラジカルが特異的に補足され、酸化障害が軽減される事を見出している。
 太田教授は、産経の記事が『水素水(活性水素水、電解還元水)』と書かれていて、別物の水素水と活性水素水が同じ物であるような記述になっている事に抗議している。
 そして「正しい知識に基づき、正しい情報を発信する。これが、科学の発展にもつながるし、科学の成果の恩恵を人類が享受できることになる。知らないのに知ったかぶりして、間違った情報を発信するのは科学的でない。
 ましてや、正統的な科学とニセ科学を混同しては、正統的な科学の恩恵を人類が受ける機会を逃してしまうことになりかねない。」と非難している。

 その記事に対し、『美容、ダイエットと何かと話題の「水素水」 実はかつてブームを巻き起こした「あの水」と同じだった…』でコメントしている唐木英明、東大名誉教授が反論にしている。
日本医科大の太田成男教授の主張には明らかな誤認がある 公益財団法人食の安全・安心財団理事長・唐木英明(東大名誉教授)」
 重要な指摘は

 消化管内の水素水から水素がどのように血中に入り、標的細胞に達するのか、水素の作用は活性酸素消去と関係があるのかなど明らかにすべき課題は多いが、研究自体はまじめな科学であり、私自身、水素水による治療研究をニセ科学と考えたことはない。

 他方、産経ニュースが取り上げたのは、「健康食品としての水素水」である。健康食品を使うのは病人ではなく健康な成人であり、その目的は病気の治療ではなく、健康の維持・増進である。
 だから、健康食品の機能を表示するためには「健康な成人での臨床試験」が必要である。間違ってはいけないのは、病人を使った治療の研究を健康食品の健康維持機能の根拠にすることが認められていない点である。
 もし科学的根拠が得られれば、その製品は特定保健用食品(トクホ)あるいは機能性表示食品として、その健康維持機能を合法的に表示することができる。
 これが国による「食薬区分」の規制である。
 それでは、水素水が健康食品としての効能を示すことを示した「健康な成人での臨床試験」はあるのだろうか? 
 現在のところ、予備的な研究はあるものの、健康食品としての効能を示すような確実な研究結果はない。
 だから、トクホあるいは機能性表示食品としての水素水は存在しない。
 科学的根拠なしに効能があるような宣伝を行えばこれは明らかなニセ科学であるだけでなく、処罰の対象になる。
 これが水素水ビジネスの実態であることを伝えたのが、産経ニュースである。

 そして、

 太田氏は「健康食品としての水素水」の議論に「病人の治療に有効」という主張を持ち込むという誤りを犯した。
 治療効果を標榜すればその健康食品は直ちに法律違反になる。
 これは水素水も活性水素水(電解還元水)も同じであり、医薬品と健康食品に対する規制を知っていれば、このような誤りは起こり得ない。
 「知らないのに知ったかぶりして、間違った情報を発信するのは科学的でない」。
 これらは私が太田氏から頂いた批判だが、そのまま太田氏にお返しする。

 と、反論している。
  
 その太田教授が6/20に自身のサイトに、「腸内細菌が発生する水素よりも水素水を飲む方が効果的」という記事を載せている。

 まず、水素水を飲むと水素は胃に入ります。胃からはグレリンというホルモンが分泌され、脳神経保護に働くことが知られています。水素水を飲むと、胃の水素濃度が高くなり、胃からグレリンが分泌されることが発見されました。
 このグレリンは血流にのって脳へ到達し、脳を護るということになります。この場合は、腸内細菌から発生される水素はあまり関係ないと考えられます。
 この研究は、千葉大学・九州大学の共同研究で、Nature出版社から論文が発表され、九州大学からプレスリリースされています。
 このプレスリリースでは、「腸管内での細菌由来の産生を増大させても効果がないというこれまでの報告にも矛盾しない結果が得られました」と述べられています。
 http://www.phar.kyushu-u.ac.jp/bbs/view1.php?S_Publ_Year=&word=&page=&B_Code=184
 http://www.nature.com/srep/2013/131120/srep03273/full/srep03273.html

 これはパーキンソン病に関してで、パーキンソン病の抑制には、水素水の形で経口摂取では効果があり、吸入や腸内細菌由来の水素では効果が無いという内容ですね。

 それは良いとして、次は少々頭をひねらざるを得ない内容となっている。

 また、腸内細菌を遺伝子操作で水素をつくれないようにして、腸内細菌から発生させる水素と飲用した水素の効果を調べた研究があります。
 腸内細菌から発せられる水素は炎症を抑制する効果が確かにありました。
 しかし、水素水を飲ませた方が、炎症を抑制する効果は強かったのです。
 http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006291X09011619

 このリンク先を見てみると・・・・・

 『Hydrogen from intestinal bacteria is protective for Concanavalin A-induced hepatitis』
 It is well known that some intestinal bacteria, such as Escherichia coli, can produce a remarkable amount of molecular hydrogen (H2).
 Although the antioxidant effects of H2 are well documented, the present study examined whether H2 released from intestinally colonized bacteria could affect Concanavalin A (ConA)-induced mouse hepatitis.
  Systemic antibiotics significantly decreased the level of H2 in both liver and intestines along with suppression of intestinal bacteria.
 As determined by the levels of AST, ALT, TNF-α and IFN-γ in serum, suppression of intestinal bacterial flora by antibiotics increased the severity of ConA-induced hepatitis, while reconstitution of intestinal flora with H2-producing E. coli, but not H2-deficient mutant E. coli, down-regulated the ConA-induced liver inflammation.
 Furthermore, in vitro production of both TNF-α and IFN-γ by ConA-stimulated spleen lymphocytes was significantly inhibited by the introduction of H2.
 These results indicate that H2 released from intestinal bacteria can suppress inflammation induced in liver by ConA.

 『腸内細菌由来の水素は、コンカナバリンAによって誘発された肝炎から保護する』
 大腸菌などのいくつかの腸内細菌には大量の水素分子(H2)を産生する能力があることがよく知られている。
 H2に抗酸化作用があることは明らかになっているが、本研究では、腸内でコロニーを形成した細菌から放出されるH2がマウスのコンカナバリンA(ConA)誘発肝炎に影響を及ぼしうるかどうかを検討した。
 抗生物質を全身投与すると、腸内細菌が抑制されるとともに、肝内および腸管内の両者でH2濃度が有意に減少した。
 血清内のAST、ALT、TNF-αおよびIFN-γの濃度による判定では、抗生物質により腸内細菌フローラを抑制するとConA誘発肝炎の重症度が増大したのに対し、H2産生大腸菌により腸内フローラを再構成するとConA誘発肝炎が下方制御されたがH2欠損大腸菌変異株では下方制御されなかった。
 さらにH2の導入により、ConA刺激を与えた脾臓リンパ球による、試験管内でのTNF-αおよびIFN-γの産生がともに有意に阻害された。
 これらの結果は、腸内細菌から放出されるH2がConAにより肝内に誘発される炎症を抑制しうることを示すものである。

 コンカナバリンAは鉈豆類に含まれる有毒性アミノ酸で、これにより薬物性肝炎を誘発させたマウスの実験で、腸内細菌による水素が肝臓の炎症を抑制するという研究内容である。
 $41.95支払って本文にも目を通したが、拙い英語力では腸内細菌由来の水素より水素水を飲ませた方が、炎症を抑制したという内容は見当たらないのだが・・・・

 『腸内細菌が発生する水素よりも水素水を飲む方が効果的』という記事が出たのは、6/10に国立健康栄養研究所の『「健康食品」の安全性・有効性情報』に水素水が掲載されたためでは無いかと邪推する。
 水素水 -「健康食品」の安全性・有効性情報 
 水素水の項目に次の様な記述が有る。

 俗に、「活性酸素を除去する」「がんを予防する」「ダイエット効果がある」などと言われているが、ヒトでの有効性について信頼できる十分なデータが見当たらない。
 現時点における水素水のヒトにおける有効性や安全性の検討は、ほとんどが疾病を有する患者を対象に実施された予備的研究であり、それらの研究結果が市販の多様な水素水の製品を摂取した時の有効性を示す根拠になるとはいえない。

 水素分子(水素ガス)は腸内細菌によって体内でも産生されており、その産生量は食物繊維などの摂取によって高まるとの報告がある。
 従って、市販の多様な水素水の製品を摂取した水素分子の効果については、体内で産生されている量も考慮すべきとの考え方がある。

 国立健康栄養研究所は国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の傘下機関であり、上記の内容は国の公的な見解とみて良いだろう。
 それが、ヒトへの予備的研究であり、市販の水素水の有効性を示すまで至っていないといっているわけで有る。
 また、水素はヒトの体内でも細菌の代謝で発生していて、体内で発生する水素を考慮しないで、経口の水素水の正しい評価は出来ないと受け取られる内容となっている。

 水素水を経口摂取したばあい、摂取直後にH2の濃度がピークを迎え、30分程度で元に戻ってしまうとされる。 
 大腸内発酵によるH2供給は、大腸に発酵基質が十分に存在すれば、継続してH2供給が出来るはずである。 
 『大腸発生水素による酸化ストレス軽減と生活習慣病予防の可能性 西村直樹/食品と開発vol,48』

 実際にどの程度のH2が発生するかだが、摂取した物質により事なり、オリゴ糖や乳糖などは発生量が多く、セルロースやグルコマンナンは低いとされる。
 フラクトオリゴ糖の場合、5gの摂取で呼気H2は2時間半ごろから排出されはじめ、5時間ごろにピークに達し,その後8時間までほぼ一定量が排出され,H2排出はその後も持続する。
  ヒトにおける呼気水素ガス試験による発酵分解評価の有効性とそれに基づく各種食物繊維素材のエネルギー評価の試み 中村/奥
 奥らの研究によると、フラクトオリゴ糖5gの摂取で、平均で呼気中のH2の濃度が平均で20ppm以上の状態が長時間維持される。

 太田教授によると、

 水1リットルに1.6mgのH2が溶けることがわかっている。H2はこの80分の1の濃度で細胞に抗酸化効果を発揮したり、遺伝子発現を制御したりすることがわかっているので水素水を飲んで何らかの効果がでるのは、別に不思議な事ではない。
 産経ニュース記事に日本医科大の太田成男教授が反論  産経新聞

 水1リットルに1.6mgのH2ということは1.6ppmであり、その80分の1のH2で有効なのであれば、H2の供給源としてはオリゴ糖等の摂取の方が長時間にわたって水素が安定的に供給される事になり、有利と言う事になる。
 太田教授の身内が、水素健康医学ラボ株式会社の代表取締役であり、ご自身も『太田教授監修の水素サプリ』なる商品にも係わっている以上、腸内細菌由来の水素が有利では『水素水商売』に差し支えが出るのは困るからと、とついつい邪推してしまう。

 『水素水商売』といえば飲料メーカーの伊藤園が、水素水の販売を始めた。

伊藤園は自社サイトの『お客様相談室』で水素水のQ&Aを載せている。
その中で、水素水に関して次の様な記述をしている。

 Q6.どんな健康効果がありますか?
 A6.伊藤園が販売する水素水は医薬品ではないため、健康効果を標ぼうするものではありません。

 健康効果を標榜するものではないと明記しながら、あたかも健康に良い様に誤認しかねない広告を載せている。

大手の飲料メーカーとしての企業倫理上、首をひねらざるを得ない対応である。
水素水のQ&Aに次の様な記述がある。

 Q9.なぜ水素水を販売しているのですか?
 A9.水分補給の1つの選択肢として販売しております。

 早い話、付加価値???を付けて高く売ろうという、『水素水商売』に徹すると言う事か。

 最近、水素水関連の商品が「雨後のタケノコ」どころか「雨後のヒトヨタケ」状態で、各社から様々な商品が出ている。
 タケノコは育つと竹藪を作るが、ヒトヨタケは朝生えて、午後には溶けて消えてしまう。
 水素水は、これから大きな竹藪となるのか、溶けて消え去るのか、個人的には興味津々ではある。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

この記事へのコメントはこちら

メールアドレスは公開されませんのでご安心ください。
また、* が付いている欄は必須項目となりますので、必ずご記入をお願いします。

内容に問題なければ、下記の「コメント送信」ボタンを押してください。

CAPTCHA