南清貴センセの「ゲノム編集食品」

 

 今年の10月1日より、遺伝子の狙った部分を操作する「ゲノム編集」技術で開発した食品の販売や流通に関する届け出制度がスタートした。
 厚生労働省への届け出は任意で、食品表示も義務ではない。
 早速、南清貴センセが噛みついている。
 『安倍政権、ゲノム編集食品の非表示を容認へ…安全性不明なまま、消費者団体の反対を無視』

 ここで起こる疑問のひとつは、ゲノム編集食品が従来の品種改良と同程度のリスクなのか、遺伝子を切り取って箇所を移動しても大したリスクではないと誰がどうやって判断したのか、そのことにリスクがないということを判断するためには、ゲノム編集食品を何年か食べ続けてその経緯を見なければわからないはずではないのか、というものです。

 遺伝子情報の変異、突然変異は自然界でも普通に起きている。
 自然の突然変異による作物も少なくなく、特に柑橘類に多い。
 ミカンでは、寿太郎温州、宮本早生、上野早生、盛田温州、させぼ温州、日南一号、岩崎早生、田口早生等が「枝変わり」と呼ばれる突然変異により出来た品種である。

 薬剤や放射線照射、イオンビーム照射により突然変異を起こさせて作り出された作物は多数有る。
 ガンマ線照射などでDNAに損傷を与えると、DNAは修復作用があり、元通りに修復されるが、その際に修復エラーが起きて、塩基の一部が欠損したり、配列が変わったり、追加されるという事が起きる場合があり、これが突然変異である。
 突然変異は元の品種より劣る場合が多いが、中には元の品種より優れた品種が出来る場合があり、それを選別して新たな品種として作り出される。
 ガンマ線照射で作り出された品種は、梨の「ゴールド二十世紀」「おさゴールド」「寿新水」、ビワの「白茂木」、大豆の「いちひめ」、米の「家族団らん」、エノキ茸の「臥竜1号」等がある。
 イオンビーム照射では、酒酵母の「群馬227」等がある。
 この方法はDNAの特定の場所を切断というわけには行かず、照射を繰り返して成績の良い品種を選別する事になり効率的でなかった。
 ちなみに「ゴールド二十世紀」は日本で最初に世に出た、ガンマ線照射による品種改良で出来た作物で、現在も青梨の主流である。
 さらにガンマ線照射で作り出され、さらに新たな品種改良に使われる品種も多い。

 ゲノム編集がこれまでと異なるのは、ターゲットを決めてDNAの切断を行うということ。
 DNAを切断する人工制限酵素を作り出す遺伝子を、遺伝子組換えの手法で組み込み、酵素の作用で目的の箇所を切断する。
 これを利用して特定の遺伝子の機能を止める方法をノックアウトと呼ぶ。
 一方、言わばDNAの鋳型として、特定の配列を断片として切断箇所に挿入する方法をノックインと呼ぶ。
 
この図でSDN-1がノックアウト、SDN-2がノックイン、SDN-3が遺伝子組換えということになる。

 ゲノム編集食品について、消費者団体などは食品表示を強く求めていますが、その声を無視するかのように、早ければ年内にもゲノム編集食品は市場に流通する見込みです。

 ゲノム編集食品の表示が難しいのは、ゲノム編集で起きる遺伝子の塩基配列が自然界でも起きうる範囲であること。
 遺伝子組換えでは外部から有用遺伝子を持ち込むわけで、本来あり得ない遺伝子がくみこまれるわけであり、チェック可能である。
 ゲノム編集で出来た食品の場合、自然に起きた突然変異なのかのか、薬剤や放射線照射による突然変異なのか、ゲノム編集による突然変異なのか判別がつかない。
 開発者であれば詳しい遺伝情報を持っているだろうが、その箇所が品種改良のポイントであり、いわば企業秘密であり現状では第三者のアクセスは難しい。
 厚生労働省も、ゲノム編集技術応用食品に係る届出の実効性に関して、次の様な案を出している。
 届出を怠った事がバレたら公表するという訳である。

 さらに、次のようなことも対応できないか検討しており、これらにより、届出の実効性が十分確保されるよう取り組んでまいりたい。
  ・届出されていなゲノム編集技術応用食品が事後に確認された場合には、そのこともわかるように、当該食品等の情報を公表する。
  ・新たにゲノム編集技術応用食品の検知法が開発され場合は、食品等試買調査等を実施する。
  食品衛生法上の特定の食品に係る規制及び措置に関する考え方について 

 現時点でゲノム編集で作り出されたか、従来の方法で作り出されたかが判別できず、これが表示が難しい原因となっている。
 この様な状況で表示を義務化しても監視することが出来ない。
 6月20日に開催された内閣府、消費者委員会の食品表示部会会議で消費者庁は、現時点では、ゲノム編集技術によって得られた変異と従来の育苗技術によって得られた変異とを判別し検出するための実効的な検査法の確立は困難としている。
 ゲノム編集技術応用食品の表示の在り方について   
 消費者庁は「表示違反の食品の検証可能性」という観点から「義務表示制度の創設は難しい」と明言したわけである。

 生産段階で、ゲノム編集かそうでないかを区別し保証書を付け、分別して流通させて保証書で識別すれば良いという説もある。
 遺伝子組み換え食品のように科学的にチェックする方法が「科学的検証」と呼ばれるのに対し、保証書のような文書による検証を「社会的検証」と呼ばれる。
 しかし、出来た作物がゲノム編集の作物か普通の作物か判別出来ない以上難しく、保証書の信頼性にも係わってくる。
 種苗会社が誤って出荷したり、ゲノム編集なのに隠して出荷というのもあり得る。
 また、生産、流通の各段階で書類の確認や分別が必要となり、コスト上昇となってしまう。

 ただ、ゲノム編集食品を買いたくないという消費者も居る。
 それを考えると、任意表示が現実的と思う。
 食品表示にある「遺伝子組換」遺伝子組換えでないと言うのがそれ。
 遺伝子組換えの作物を使った食品は表示が義務づけられているが、未使用の場合は表示義務はない。
 「遺伝子組換えでない」というのは、事業者が自らの責任で表示している訳である。
 分別流通、書類による確認等にコストがかかるが、一部の事業者が自らの責任でコストをかけて管理し、商品を値付けして売るのであれば、それは自由であり、消費者が、その任意表示は科学的に保証されたものでないことを了承のうえで、納得して高く買 うのであれば消費者の選択という事で有ろう。
 また、アレルゲンを除去した様な機能性をもたせた作物の場合、それをアピールしたい業者もあるであろう。
 それを考えると任意表示が現実的と思う。

 ゲノム編集食品を危険視する人々が言及するのがオフターゲットである。
 ゲノム編集する際にDNAを切断するが、本来の箇所とは異なる意図しない箇所を切断してしまうことである。
 これは医療であればがん化するなどのリスクになるが、品種改良ではあまり問題にならない。
 ゲノム編集による品種改良は、放射線照射などと比べると精度が上がっているが、それでも500株以上作り出しても使えそうなのは精々1株程度と言われている。
 消費者委員会食品表示部会第55回議事録 
 また、ゲノム編集の齊にDNAを切断する酵素を作り出す、人工制限酵素遺伝子を組み込んでいる。
 最終的にこの人工制限酵素遺伝子を除去する必要があるが、遺伝子組換えやゲノム編集技術を用いていない系統と交配する、いわゆる戻し交配をすることにより除去できる。(ヌルセグリガント)
 オフターゲットも株の選別、戻し交配などで除去可能である。
 
  また、薬物や放射線照射など従来の育苗技術でも同様な事が起きている現象が起きていると考えられている。
 消費者委員会食品表示部会第55回議事録
 ちなみに、放射線照射等での品種改良では、作物としての優劣により評価され、安全性に関しての評価はされていない。

 個人的にはゲノム編集食品に特段の危険性が有るとは思っていない。
 将来的には否応なく、ゲノム編集食品とつきあわざるを得ないと思う。

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