自称科学ジャーナリストの渡辺雄二センセの非科学的トンデモ記事「経口補水液」

 

 自称科学ジャーナリストの渡辺雄二センセが、この内容でよくぞ科学ジャーナリストを名乗れたと言いたくなるような、非科学的でトンデモな記事、『割高な経口補水液、熱中症予防には買ってはいけない?主成分は塩?医師の指示必要な病者用』を書いている。
 
 何が非科学的かいうと・・・・

 では、何が含まれているのかというと、主に食塩(塩化ナトリウム)とクエン酸です。食塩が多いため、スポーツドリンクに比べてナトリウムの量は多くなっています。しかし、ナトリウムを摂るのだったら、食塩を摂取するか、食塩を含む食品を食べればいいのです。わざわざ高価な経口補水液を飲む必要はありません。

 サブタイトルはご丁寧に『経口補水液は割高な「食塩水」』となっている。
 経口補水液は元々、発展途上国でコレラの治療用として用いられた。
 コレラはコレラ毒素を産生する型のコレラ菌による疾病で、小腸に定着してコレラ毒素を作り出す。
 そのコレラ毒素は上皮細胞を冒し、その作用で細胞内の水と電解質が大量に流出し、いわゆる「米のとぎ汁様」の猛烈な下痢と嘔吐を起こす。
 その際にコレラ患者の下痢では,分析の結果から便中ナトリウムイオン(Na+)濃度が120 mmol/Lと高濃度で、大量の水分と電解質を失い、最悪の場合死亡に至る。
 一番確実な水分と電解質の補給は輸液だが、発展途上国で多くの患者が発生している場合では現実的では無く、経口による水分と電解質の供給のために用いられたのが経口補水液である。

 渡辺センセは経口補水液に主に含まれるのは食塩とクエン酸と書いているが、重要なのは食塩とブドウ糖である。
 小腸がナトリウムイオンN+を吸収する際に、SGLT1と呼ばれるトランスポーターの働きで取り込まれるが、その際にブドウ糖(グルコース)と水分も吸収される。(ナトリウムイオン/グルコース共輸送体)
 Na共役型グルコース 輸送体(SGLT)とは  
 しかも、コレラやロタウィルスによる激しい下痢でも、この共輸送体の機能は失われないことが判っている。

 Na+単独に比べてブドウ糖が共存した場合に水の吸収が促進されることが,ヒトでの臨床薬理試験で明らかにされた。
 生理食塩液の単独および混合液(生理食塩液と5%ブドウ糖液)からの水吸収速度を検討した結果,ブドウ糖濃度1~2.5%が水吸収におけるブドウ糖の至適濃度とされた
 別の研究における報告では,Na+とブドウ糖のモル濃度比(モル/L)が1:1~2程度の場合に,最も効率よくNa+と水の吸収が行われることが明らかにされた。
 また,ORSの浸透圧に関する研究結果では,血清浸透圧よりも低値であることが小腸における水・電解質吸収には優れていることが示された。
 経口補水療法 

 つまり経口補水液は、決して「割高な食塩水」ではなく、効率よく水分と電解質が吸収されるように、ブドウ糖とナトリウムイオンの濃度、比率、浸透圧を調整した補水液と言うことになる。
 代表的な経口補水液のリストは次の通り。
 
 こうしてみると、一口に経口補水液と言っても、医薬品、特別用途食品、普通の食品と様々ではあるが、組成は大きくは違わない。
 OS-1の組成の組成を見ると、ナトリウムイオンは50mmol/L、ブドウ糖は100mmol/Lとなっている。
 ナトリウムのモル質量は22.9898 g/mol(1mol約23g)、ブドウ糖のモル質量は180.16 g/mol(1mol約180g)となっている。
 ナトリウム:23g/1000=0.023g
 0.023g*50=1.15g:食塩換算ナトリウム1.15g*2.54=2.921g
 ブドウ糖:180g/1000=0.18g
 0.18g*100=18g
 1リットルあたり食塩換算ナトリウムが2.921g、ブドウ糖18gとなる。
 100ミリリットルではナトリウムが食塩相当量0.2921g、ブドウ糖1.8gとなる。
 OS-1の栄養成分表示を見ると、100mLあたり食塩相当量で0.292g、ブドウ糖1.8gとなっている。(良かった、計算合ってる)
 OS-1基本情報 

 経口補水液は水分や電解質を吸収しやすいように調整されていて、飲みにくいといって水やジュースなどで薄めたり、砂糖など加えては効果が薄まる。
 あくまでもそのまま飲まないと意味がなくなる。

 ところで、経口補水液は、「脱水状態になった際に飲むもの」です。あるメーカーから販売されている経口補水液は、消費者庁から許可された「病者用食品」であり、「感染性腸炎、感冒による下痢・嘔吐・発熱を伴う脱水状態、高齢者の経口摂取不足による脱水状態、過度の発汗による脱水状態等に適しています」とボトルに明記されています。さらに、「医師から脱水状態時の食事療法として指示された場合に限りお飲み下さい。医師、薬剤師、看護師、管理栄養士の指導に従ってお飲み下さい」とも書かれています。

 つまり、この製品は、感染性の腸炎や感冒(いわゆる風邪)などの病気になって、水分を補給することが困難になって脱水状態になった時に経口摂取するものなのです。そして、それは、医師から食事療法として飲むように指示された場合に限られるのです。

 ところが、有名タレントを使ったテレビCMなどによって、この製品は熱中症を防ぐために飲むべきであるかのように消費者に思わせています。

 おそらく大塚のOS-1の事をいっているのであろう。
 OS-1の表示に『個別評価型病者用食品』の表示がある。
 この『個別評価型病者用食品』に関しては、消費者庁の特別用途食品の表示許可基準に明記してある。
 特別用途食品の表示許可基準 
 この文書の第2項の4、「個別評価型病者用食品」で規定される。
 これによると「病者用食品である旨」、「医師に指示された場合に限り用いる旨」、「医師、管理栄養士等の相談、指導を得て使用することが適当である」などの表示が義務づけられている。
 この件に関し、以前に行きつけの調剤薬局の薬剤師に聞いたことがあるが、「OS-1はあくまでも食品であり、購入や使用に関して法的な規制はない。医師に指示された場合というのは、病気の治療目的に使用する場合のことで、病気でない人の使用は問題ない。」とのことであった。

 ただしOS-1をはじめ、経口補水液はナトリウムやカリウムを多く含む。
 OS-1を1リットル飲むと、ナトリウムが食塩換算で約2.9gとなるが、高血圧治療ガイドライン2014年版によると、食塩の摂取量は1日6g未満となっていて、経口補水液だけで1日の摂取量の半分を摂取することになる。
 高血圧治療ガイドライン2014 
 ナトリウムやカリウムの量が多いので、高血圧で治療中の人や腎臓疾患を持つ人は要注意である。
 また、ブドウ糖も多めなので、糖尿病で血糖値のコントロールをしている人も要注意である。

 色々書いたが渡辺センセの肩を持つわけではないけれど、激しい運動や労働などで大量に汗をかいたとき以外では、わざわざ値段の高い経口補水液を飲む必要性は低いと思う。

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