再び加工デンプン、小薮浩二郎バージョン

 

 自称食品メーカー顧問の、小薮浩二郎センセのいい加減というか怪しい記事。
 『うどん・パンに含有の加工デンプン、確固たる安全性検証されず広く使用?
 毎度おなじみの、加工デンプンへの非難ですが・・・

 例えば小麦デンプンに、発がん性物質であることが否定されていないプロピレンオキシド(以下、P)その他の化学薬品を加えて、ヒドロキシプロピル小麦デンプンを 合成した場合について考えてみましょう。~~
 ~~デンプンはブドウ糖という輪が数千個つながった鎖みたいなものです。
 この1つの輪には、Pが結合できる部分が3カ所あります。仮に輪が1000個つながった鎖とすると、Pが結合できる部分は3000カ所になります。
 このような鎖に3000個のPを結合させるとき、Pはどの輪に結合するか、また一つの輪の3カ所のうちのどこに結合するのか、コントロールできません。

 プロピレンオキシド(酸化プロピレン)は動物実験により、国際がん研究機関(IARC)の発がん性リスク一覧では、「ヒトに対する発癌性が疑われる」のグループ2Bに分類されている。
 ちなみにグループ2Bには「アジア式野菜の漬物」などがある。
 アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)の研究で、雌ラット50匹を1グループとして、150週間経口投与で2.58mg/kg/日のグループで2匹、10.28mg/kg/日のグループで19匹、前胃扁平上皮がんが発生したとしていて、対照群の投与なしは100匹中ゼロであったとしている。
 酸化プロピレン-環境省  

 ところでこの記事には変な箇所がある。
 >プロピレンオキシド(以下、P)
 >この1つの輪には、Pが結合できる部分が3カ所あります。仮に輪が1000個つながった鎖とすると、Pが結合できる部分は3000カ所になります。
 この記事によるとデンプンの分子中のブドウ糖(グルコース)に3カ所、プロピレンオキシドが結合できるとしているが、プロピレンオキシドはあくまでもエーテル化剤として使用されているだけで、プロピレンオキシドがグルコースと結合するわけでは無い。

 デンプンはグルコース分子が複数分岐なしで1列に結合したアミロースと、途中で分岐しているアミロペクチンで出来ている。
 それぞれのグルコースの数はデンプンの種類により異なる。
 アミロースとアミロペクチンの構造式は次の通り。
 アミロース

 アミロペクチン

 アミロースやアミロペクチンの分子中のグルコースで、グルコース同士の結合に使われていない水酸基(-OH)が3カ所ある。(赤丸でマーキングした箇所)
 この部分が他の官能基と自由に置換できるわけで、この部分の水酸基がヒドロキシプロピル基に置き換わったのがヒドロキシプロピル加工デンプンと言うことになる。
 さらにリン酸の作用で加工デンプンの分子が結合した「ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン」というのも有る。
 グルコース分子のどの水酸基が置換するかはいわば成り行きで、神のみぞ知るといったところか。

 1グルコース残基の水酸基がどれだけ置換したかを表す数字にDS(Degree of substitution=置換の程度)がある。
 1つのグルコースの水酸基3個がすべてヒドロキシプロピル基やアセチル基に置換すればDSは3となり、1個なら1となる。
 グルコース100個の水酸基の300の水酸基すべてが置換すればDSは3となり、300のうち30が置換すれば0.3となる。
 日本のヒドロキシプロピルデンプンの規格では、ヒドロキシプロピル基は7%以下となっているから、グルコース100個で考えれば
 300*0.07/300*3=0.21
 DSは0.21以下となる。
 加工デンプン11品目 

 Pが結合した小麦デンプン(ヒドロキシプロピル小麦デンプン)とは、このようなものです。
 つくるたびにPの結合部分は異なります。つまり、同じ化学構造のものはつくれないのです。
 ですから安全性試験に使用した合成デンプンと、実際に食品に使用される合成デンプンは異なるのです。
 これは大問題です。

 >Pが結合した小麦デンプン(ヒドロキシプロピル小麦デンプン)とは、このようなものです。
 繰り返しになるが、ヒドロキシプロピルデンプンはプロピレンオキシド(以下、P)が結合したものでは無い。
 >つくるたびにPの結合部分は異なります。つまり、同じ化学構造のものはつくれないのです。

 グルコース同士の結合に使われていない水酸基のいずれかがヒドロキシプロピル基に置き換わっているわけで、出来るのは次の7種類となる。
 1グループ:3箇所の水酸基のうち1箇所がヒドロキシプロピル基に置き換わっているもの。3種類
 2グループ:3箇所の水酸基のうち2箇所が3箇所の水酸基のうちるもの。3種類
 3グループ:3箇所の水酸基のうちすべてがヒドロキシプロピル基に置き換わっているの。1種類
 の7種類のいずれかになるわけで、同じ化学構造のものは作れないわけではない。
 ヒドロキシデンプンはこの7種類が混在している訳で有る。

 また、小麦デンプンと馬鈴薯デンプンでは、当然デンプン自体の化学構造が異なります。
 Pが結合した小麦デンプンと、Pが結合した馬鈴薯デンプンとはまったく別物質です。
 Pが結合したさまざまなデンプンでの安全性試験は、行われてはいないのです。

 結局、7種類が混在しているという事は同じで、数珠つなぎになっているグルコース残基の数が異なるだけ。
 ヒドロキシプロピルデンプンを含めた加工デンプンは、国連の食糧農業機関(FAO)及び世界保健機関(WHO)が設けたFAO/WHO合同食品添加物専門家会議「FAO/WHO Joint Expert Committee on Food Additives 」、略称JECFAが安全性の評価を行い「ADI を特定しない」、つまり安全性に問題は無く上限値を設定しないとしている。

 化学式のわずかな違いでも、安全性は大きく異なります。
 例えばメチルアルコールとエチルアルコールはわずかな違いしかありません。メチルアルコールは猛毒で飲めば失明したり死亡したりします。
 一方、エチルアルコールはお酒に含まれているアルコールです。

 エチルアルコールの化学式:C2H6O
 エチルアルコールの分子構造

 メチルアルコールの化学式:CH4O
 メチルアルコールの分子構造
  
 日本語では(エ)と(メ)の違いしか無いけれど、エチルアルコールとメチルアルコール、化学式から見ても分子構造から見てもわずかな違いではなく、全く別物だけど・・・・
 少なくともデンプンの種類の違いや、水酸基の置き換わりとは別次元の問題だが・・・
 ちなみにデンプンの分子式は(C6H10O5)nで、カッコ外のnがグルコースの数で、デンプンの種類によりnが異なるだけで、エチルアルコールとメチルアルコールの違いとは異なる。

 JECFA における評価
 14C 標識ヒドロキシプロピルデンプンを用いたラットでの代謝試験において、投与した放射能の大半(92%)が糞中に排出されるとの知見が得られている。
 長期毒性試験は実施されていないが、より高度に加工されているヒドロキシプロピル化エピ架橋デンプン(Hydroxypropyl distarch grycerol)の長期毒性試験において有害影響がみられていないことから、デンプン分子へのヒドロキシプロピル基の導入は有害影響を惹起しないと考えられる。
 添加物評価書 加工デンプン 

 デンプンは酵素のアミラーゼやα-グルコシダーゼの作用によりグルコースまで分解され吸収される。
 ヒドロキシプロピルデンプン中の水酸基がヒドロキシプロピル基に置き換わったグルコースは、消化吸収できず大部分が糞便として排泄され、一部は腸内細菌の代謝物として吸収される。

 14C 標識プロピレンオキシド処理により製造した加工デンプンを雄ラットに経口投与したところ、投与後 50 時間で放射能の 92%が糞中に、3.6%が尿中に排泄された。
 また、in vitro において、ヒドロキシプロピル基の低置換及び高置換デンプンは、程度の差はあるものの共に、未加工デンプンと同様に消化酵素により加水分解されることが示されている。
 一方、パンクレアチンによる消化分解率は、DS の増加に伴い減少した 。
 添加物評価書 加工デンプン 

 EU諸国がヒドロキシプロピルデンプン及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンを乳幼児向け食品に使用すべきで無いとしているのは、これらが危険だからと言うわけでは無く、残留する可能性の有るエーテル化剤のプロピレンオキシドに対する安全性情報が不足しているため。

 また、プロピレンオキシドが残留する可能性のある加工デンプンについては、技術的に可能なレベルでプロピレンオキシドの低減化を図るよう留意するべきである。
 添加物評価書 加工デンプン

 ちなみにヒトはグルタチオン S-トランスフェラーゼやエポキシド加水分解酵素などでプロピレンオキシドを無毒化するメカニズムを持っている。
 酸化プロピレン-環境省  
 
 欧州食品安全機関(EFSA)は2017年10月5日、食品添加物としての加工デンプン類12品目 (酸化デンプン(oxidised starch)(E 1404)、リン酸化デンプン(monostarch phosphate)(E 1410)、リン酸架橋デンプン(distarch phosphate)(E 1412)、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン(phosphated distarch phosphate)(E 1413)、アセチル化リン酸架橋デンプン(acetylated distarch phosphate)(E 1414)、アセチル化デンプン(acetylated starch)(別名:酢酸デンプン(starch acetate))(E 1420)、アセチル化アジピン酸架橋デンプン(acetylated distarch adipate)(E 1422)、ヒドロキシプロピルデンプン(hydroxypropyl starch)(E 1440)、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン(hydroxypropyl distarch phosphate)(E 1442)、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム(starch sodium octenyl succinate)(E 1450)、アセチル化酸化デンプン(acetylated oxidised starch)(E 1451)、オクテニルコハク酸トウモロコシデンプンエステルアルミニウム(starch aluminium octenyl succinate)(E 1452)) の再評価を行っている。
 欧州委員会(EC)からの要請を受けて、EFSAの「食品添加物及び食品に添加される栄養源に関する科学パネル」(ANSパネル)は、
 1.報告されている一般人口集団向けの用途及び使用濃度において食品添加物としての加工デンプン類の使用に安全性の懸念はない。
 2,数値のADIは不要である。
 と結論づけた。
 EFSA Journal 

 日本だけで無く、国際的に加工デンプンの安全性に問題ないと評価されている。

 ところで小薮浩二郎センセ、やたらにヒドロキシプロピル小麦デンプンと言っているが、加工デンプンはトウモロコシデンプンのコーンスターチとタピオカデンプンが最も使われるんだが。

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