コーヒーの発がん性表示

   2018/04/10

 アメリカ、ロサンゼルスの裁判所がコーヒーの販売業者に対し、コーヒーに発がん物質が含まれている旨の警告を表示すべきとの判断を下した。
 また判決が確定したわけではないが、確定すればカリフォルニア州でコーヒーを販売する際に、発がん性の表示が必要となる。
コーヒーの発がん性警告を LA裁判所、スタバなど販売者に命令

 米ロサンゼルスの裁判所は30日までに、米コーヒーチェーン大手スターバックスなど販売業者に対し、コーヒーに発がん性成分が含まれているとの警告を表示すべきとの判断を下した。
 AP通信などが伝えた。健康被害があるとする原告側の非営利団体の主張を認めた。
 販売業者は上訴できるが、判決が確定すれば、カリフォルニア州でコーヒーを販売する場合、発がん性表示が義務付けられる事になる。

 この発がん性物質というのはアクリルアミド。
 食品に含まれるアミノ酸の1種のアスパラギンが、ブドウ糖や果糖などの還元糖が120℃以上の高温下で反応して生成され、国際がん研究機関(IARC)の発がん性分類では、「ヒトに対しておそらく発がん性がある」のグループ2Aに分類される。
 アクリルアミドに関してはポテトチップスやフライドポテトが随分叩かれたが、家庭料理を含めて多くの食品に含まれる。
 コーヒーが問題となっていたが、日本独自の飲み物、焙じ茶や麦茶などもアクリルアミドが多いのが判る。
 食品中のアクリルアミドの含有実態調査 
 実は加工食品のアクリルアミド対策は進んでいる。
 この事は当サイトの「アクリルアミド再び」で触れている。

 毒性評価で非発がん性毒性は、動物実験で得た無毒性量(NOAEL、複数の用量群を用いた反復投与毒性試験,生殖・発生毒性試験などの動物実験において,毒性学的なすべての有害な影響が認められなかった最高の暴露量のこと。
 最大無作用量NOELと同意語として扱われることもある。)から一日摂取許容量(ADI)や耐容1日摂取量(TDI)を算出する。
 安全係数として通常は実験動物とヒトの種の違いを考慮し10倍に、個体差を考慮して10倍を乗じた100が用いられ、NOAELやNOELを安全係数100で割った値をADIやTDIとする。
 ちなみに、ADIは食品添加物など食品に用いられた物質に用いられ、意図的に加えるのではない汚染物質などの場合はTDIが用いられるが、最近はどちらもADIが使われることが多い。

 発がん性毒性は、たとえ1分子というわずかな量でも細胞のDNAに作用して遺伝子の突然変異を起こす可能性が有るとされ、毒性の発現する最低量(閾値)の設定は不適当とされている。
 FAO/WHO食品添加物専門家会議(JECFA)はベンチマークドーズ法の結果から得たBMDL10を用い、暴露幅(MOE)を算出し評価している。
 ベンチマークドーズ法の活用に関する現状と課題 

 暴露幅(MOE、Margin Of Exposure)の算出は無毒性量やBMDLと摂取量の差を数的に表す指標である。
 2010年開催のJECFA第72回会合での摂取量評価では一般的な人々の平均的なアクリルアミド推定摂取量は1日当たり1 μg/kg体重、摂取量が多い人々のアクリルアミド推定摂取量は1日当たり4 μg/kg体重としている。
 ラットによる動物実験で腫瘍発生が対照群に比べて10%だけ増加するBMDとBMDLを推計し、0.30 mg/kg体重/日を発がんの評価に用いるとしている。
 JECFAの評価と勧告 
 暴露幅(MOE)の算出はアクリルアミドの平均摂取量1(μg/kg体重)と0.30 (mg/kg体重/日)から
 MOE=0.3*1000/1=300となる。
 MOEが10,000以上であれば、ヒトの健康への懸念は低いとされ、それより小さいものは懸念があるとされるが、10,000という数字は健康への懸念を引き起こす閾値と見なすべきではないとされる。
 JECFAの評価はつぎのとおり

 神経の形態変化ではNOELが0.2(mg/kg体重/日)であり、安全係数100でADIを算出すると
 ADI=0.2mg*1000/100=2(μg/kg体重/日)となる。
 平均的な摂取量では1(μg/kg体重/日)でありADIを下回っているが、摂取量の多い人4(μg/kg体重/日)であり、『平均摂取量の場合には、これらの影響が生じるとは考えられない。しかし摂取が相当多い一部の人には、神経影響の可能性を否定できない。』という評価になったのであろう。
 発がん性に関してはBMDL100.3(mg/kg体重/日)からMOEを算出すると
 平均摂取では
 MOE=0.3*1000/1=300
 摂取量の多い場合
 MOE=0.3*1000/4=75
 であり、一応の目安とされる10,000を大幅に下回っているため『食品中のアクリルアミド濃度を低減する努力を継続すべき。』とされたのであろう。

 焙煎したコーヒーのアクリルアミドの量は比較的多く、それが今回の判決となったのであろうが、アクリルアミドの多い食品は他にもあり、コーヒーだけが槍玉に挙げられたという気がしないでもない。
 この後の展開は興味深い。
 なお、コーヒーの健康への影響を巡っては、世界保健機関(WHO)の専門組織が2016年に「発がん性がある可能性を示す決定的な証拠はない」との調査結果を発表している。
「コーヒー発がん性」証拠なし、熱い飲み物には注意=WHO ロイター  

 JECFAの推定では平均的なアクリルアミドの摂取量は、1(μg/kg体重/日)としているが、国立研究開発法人国立環境研究所の鈴木の研究によると、日本人の平均摂取量は202(ng/kg体重/日)と推定していて、JECFAの推定値の1/5の摂取量となっている。
 食品からのアクリルアミド摂取量の統計的推定に関する研究  表16
 鈴木の推定値からMOEを算出すると日本人の平均的なMOEは
 202(ng/kg体重/日)=0.202(μg/kg体重/日)
 MOE=0.3*1000/0.202=1485となる。

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