母乳のネット販売

 

 毎日新聞の報道で一気に話題になったのが、母乳のネット販売だ。
 成分分析したところ牛乳には含まれるが、人間の母乳には含まれないβラクトグロブリンが検出されたり、連鎖球菌等の最近が通常の母乳の100~1000倍も含まれるなど不衛生極まりない物であった。
 このβラクトグロブリンとαs1カゼインが牛乳のアレルギーの原因とされ、牛乳アレルギーの子供用にβラクトグロブリンやαs1カゼインを分解したり除去したミルクも市販されている。
 牛乳アレルギーや抵抗力の低い乳児にとって危険な商品が売られていたわけだ。
 また、母乳を介して感染する可能性のある病気としては、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)等がある。
 毎日新聞の報道によるとこのようなサイトは6業者有り、唯一所在地の表示のあった,ママ・ミルキーの利用規約に記載してある東京都三鷹市の住所に行くと、アパートがあるだけで業者は存在しなかったとの事だ。

 この様なインチキ母乳が売られていた背景には、『母乳神話』とか『母乳信仰』とまで言われる完全母乳育児礼讃説が背景にあると思われる。
 確かに乳児にとって母乳で育てるのが理想的なのは間違いなく、ネット上でも母乳による育児の成功例が数多く見つかる。
 成功した人はその結果を声高に伝え、うまくいかなかった人は沈黙し、結果として完全母乳育児の成功例ばかりが広く伝わる。
 今回の様な出来事が起きると、『安易にこのような情報にだまされる』と言った批判が起きるが、今回の様な母乳依存はより良い子育てをしたいと必死になった結果であろう
 また周りの人も母乳で育てるのが当然の事との態度の人が多く、母乳の出が悪いのは母親の努力が足りないなど批判したり、非科学的な情報があふれている。
 ネット上では「粉ミルクを足すと、母乳を飲まなくなる」「母乳でないと免疫機能に影響が出る」「母乳で育つと情緒が安定する」などの医学的には根拠の無い情報で溢れかえっている。
 乳児期の子供は夜間でも数時間ごとに目を覚まし、主に世話をする母親はろくに睡眠時間もとれず、慣れない育児に心身とも疲れ果てた状態でこのような情報を目にすると、普段は論理的で合理的に物事を考えるタイプの女性だとしても素直に信じてしまうのかもしれない。
 元々食に関してこだわりの有る人で有ればなおさら不安を煽られる事で有ろう。
 そのため必死に情報を探し回り、今回の様なインチキ業者を頼ってしまったと思う。
 健康食品等に多いが、他の商品を貶める事で自社の製品の優秀な事を訴えるという手口が有るが、今回の事はより根が深いといえる。

ユニセフのサイトに『「赤ちゃんにやさしい病院」イニシアティブ』なるページが有る。
その中に<母乳育児を成功させるための10か条>というのが有る。
 1,母乳育児の方針を全ての医療に関わっている人に、常に知らせること
 2,全ての医療従事者に母乳育児をするために必要な知識と技術を教えること
 3,全ての妊婦に母乳育児の良い点とその方法を良く知らせること
 4,母親が分娩後30分以内に母乳を飲ませられるように援助をすること
 5,母親に授乳の指導を充分にし、もし、赤ちゃんから離れることがあっても母乳の分泌を維持する方法を教えてあげること
 6,医学的な必要がないのに母乳以外のもの水分、糖水、人工乳を与えないこと
 7,母子同室にすること。赤ちゃんと母親が1日中24時間、一緒にいられるようにすること
 8,赤ちゃんが欲しがるときは、欲しがるままの授乳をすすめること
 9,母乳を飲んでいる赤ちゃんにゴムの乳首やおしゃぶりを与えないこと
10,母乳育児のための支援グル-プ作って援助し、退院する母親に、このようなグル-プを紹介すること
 と、母乳至上主義とでもいえる様な内容が記載されている。
 これをベースに『赤ちゃんにやさしい病院』を認定していて、日本ではユニセフから認定審査業務を委託された「日本母乳の会」が認定をしている。
 厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド」もこれをベースにしている。
 この内容、母乳があまり出ない女性にとってはあまりに残酷な内容となっている。

『 カンガルーケアの”落とし穴”』というサイトに、「赤ちゃんに優しい病院」のメリットメリットは、赤ちゃんではなく病院側に、という内容が記載されている。

「赤ちゃんに優しい病院」のメリットメリットは、赤ちゃんではなく病院側に
①WHO/UNICEFが認めた「赤ちゃんに優しい病院」の認定書がもらえる。
厚労省が後援しているために、病院の宣伝効果は絶大である。
②「赤ちゃんに優しい病院」のメリットは助産師確保に有利に働く事である。
産科開業医にとって助産師不足は深刻である。助産師以外の看護師に内診させると保健所の立ち入り検査がある。助産師は「赤ちゃんに優しい病院」に集中し、人工ミルクを使う開業医に新卒助産師は就職したがらない。助産師学校は第4条(カンガルーケア)・第6条を(完全母乳)を徹底的に教育指導し、人工ミルクを飲ませる事を良しとしないからである。
③重症黄疸の増加によって入院治療費(診療報酬)が増え、施設にとって経済的効果が大きい。
④病院側にメリットはあっても、デメリットは無い。病院に優しい制度である。

 また「母乳育児を成功させるための十か条」の内容に批判的な医師が居るが、ユニセフの権威の前にはかなわない。
「母乳育児を成功させるための十か条」が策定されたのは1983年で内容を見ても、発展途上国を対象にした様に見える。

いわゆる「粉ミルク」などの人工乳は、先進国のみならず、今では多くの途上国でも、お金さえあれば、容易に手に入るようになりました。しかし、清潔で安全な飲料水を入手できる人の数はまだまだ限られています。また、多くが1日1ドル未満の生活を余儀なくされている状況の中で、そうした人工乳を買い続けることは容易なことではありません。

 現在の日本では、アレルギー体質の子供でも使える様な安全な粉ミルクは簡単に手に入る。
 発展途上国の乳幼児の死亡率の高さは大きな問題となっているが、現在の日本では「母乳育児を成功させるための十か条」を金科玉条にする必要は無いと思う。
 少なくとも、母乳で育てたいけれどそれが出来ない女性にとっては、あまりに酷い内容となっている気がしてしょうがない。

最後に『母乳至上主義』から解放された女性の体験を乗せているサイトをご紹介。
ベイビーネット 

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