喪われた名誉「グルタミン酸ナトリウム」

 

 ネット上には様々な情報がが飛び交っていて、客観的な根拠の有る情報より、根拠の不十分な怪しい情報、都市伝説の様な情報が遙かに多い。
 ここではグルタミン酸ナトリウムを取りあげる。
 ネットでグルタミン酸ナトリウムを検索すると、中華料理症候群、緑内障、脳障害、有害な化学合成物質等、危険という情報が飛び交っているが、それらの多くは現在では否定されている研究結果などが引用されている場合が多い。

 グルタミン酸はタンパク質を構成する20種のアミノ酸のひとつで、人体の主要部分は全てタンパク質といって差し支えありませんので、グルタミン酸なしで生命はありえない。
 色々な食物にも含まれ、ヒトの体内でも合成されている。
 グルタミン酸の歴史はというと・・・・
 1866年にドイツの化学者Karl H. L. Ritthauzenにより小麦グルテンのエタノール可溶部分の硫酸分解物から、酸性アミノ酸を単離し原料のグルテンからグルタミン酸と名付けられた。
 リットハウゼン先生、グルタミン酸の味見をした様で、『弱くてまずい味』と表現しており特に注目される事は無かった。
生命工学 2011年11号 味を決めるアミノ酸
 1907年になって東京帝国大学理学部化学科(現在の東京大学理学部化学科)の教授、池田菊苗が約38kgの昆布から取った煮汁からL-グルタミン酸ナトリウム約30gを取り出すのに成功し、昆布のうまみ成分がグルタミン酸ナトリウムであることが確定した。
うま味の発見と池田菊苗教授  
 グルタミン酸ナトリウムを危険な化学物質などと呼ばれたりするが、グルタミン酸は単独では旨味は無く、ナトリウム等と結合したグルタミン酸塩にらないと旨味が出せない事になる。
 何のことは無い、味の素も昆布の旨味も同じグルタミン酸塩によるという事。
 グルタミン酸ナトリウムは天然でも存在する物質で、天然調味料でもある。
 日本ではグルタミン酸ナトリウムの他に、グルタミン酸アンモニウム、グルタミン酸カリウム、グルタミン酸カルシウム、グルタミン酸マグネシウムが食品添加物として認められているが、実際には値段の一番安いグルタミン酸ナトリウムがほとんどである。

 初期ははタンパク質の加水分解法で製造されていたが、協和発酵(現、協和発酵キリン)が廃糖蜜等を原料にした発酵法を開発し、効率の良い発酵法に移行した。
 その後、廃糖蜜などの入手に懸念を感じた味の素は、石油由来のアクリロニトリルから合成する方法を開発し、 1963年から1973年にかけて11年間製造されていたが主流は発酵法であった。
味の素グル史ープの100年
 これをもって、未だに石油から合成しているとしているサイトも結構ある。
 ちなみにグルタミン酸は、L-グルタミン酸と光学異性体のD-グルタミン酸が有るが、人間はL-グルタミン酸の受容体は持つがD-グルタミン酸の受容体は無く、調味料として使えるのはL-グルタミン酸だけで、単にグルタミン酸というと普通はL-グルタミン酸を意味する。

こんな記事を見かけた。
危険な化学調味料が野放し?精神異常や失明の恐れ、ラーメン一杯でも危険量  

 MSGは、ネズミによる実験で幼体の視床下部などへの悪影響が指摘されている食品添加物です。また、中華料理を食べた人が頭痛、顔面紅潮、体の痺れなどを起こす中華料理症候群の原因と考えられています。こうした毒性の指摘が出たことから、1974年にFAO(国連食糧農業機関)/WHO(世界保健機関)合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、MSGの一日摂取許容量(ADI)を体重1kgにつき120mgとしました。つまり、体重50kgの人で6gとなります。しかし、JECFAのその後の追試により、通常の食生活でMSGを摂取する限り、中華料理症候群や幼い子の視床下部への悪影響は認められないとして、87年にMSGのADIは撤廃されました。

 要するに、現在MSGは無制限に使える食品添加物となっています。ラーメン店によっては、小さじ一杯程度のMSGを入れているところもあります。小さじ一杯は塩換算で6gです。以前の基準に当てはめると、そのラーメン一杯でADIに達するほどです。しかし基準が撤廃された今日では、MSGは多くの食品で無制限に添加されています。

 MSGについては、ADIを再設定すべきです。MSGの危険性は中華料理症候群、幼体の視床下部への悪影響だけではありません。72年に厚生省(当時)は、MSGが精神異常につながる上半身感覚異常を起こす危険に関し、全国の保健所に通達を出しています。現在においても、異常な少年犯罪とMSGの関連はまったく未解明のままです。

 また、2002年に弘前大学医学部の研究チームは、ラットの実験でMSGの過剰摂取が緑内障につながる恐れがあると指摘しています。緑内障は日本における失明の最大原因です。

 > MSGは、ネズミによる実験で幼体の視床下部などへの悪影響が指摘されている食品添加物です。
正確には

『マウスの新生仔に大量のL-グルタミン酸ナトリウムを皮下注射すると、網膜(体重kg当たり4g以上投与時)、若しくは脳視床下部(体重kg当たり0.5g以上投与時)の一部に病変が起こることがそれぞれ報告された。
[Lucas,D.R.,et al.;Amer.Med.Ass.Arch.Ophthalmol.58:193(1957);Olney,J.W.:Science 164:719(1969)]』
 *マウスの新生仔に大量のL-グルタミン酸ナトリウムを皮下注射すると、網膜(体重kg当たり4g以上投与時)、若しくは脳視床下部(体重kg当たり0.5g以上投与時)の一部に病変が起こることがそれぞれ報告された。
[Lucas,D.R.,et al.;Amer.Med.Ass.Arch.Ophthalmol.58:193(1957);Olney,J.W.:Science 164:719(1969)]

それ以後、病理組織、成長及び生殖機能上の影響-肥満・不妊などについて検討がされた。この病変は幼若マウス、ラット等齧歯類動物で認められるが、成熟に伴い起き難くなる。イヌ、サル等の高等動物での病変は確認されていない。病変の有無には投与経路の影響が大きく、病変が認められたのは非経口投与、若しくは強制経口投与に限られている。食餌混入若しくは飲水混入で、自由摂取させた場合、最も感受性の高いマウスが大量のL-グルタミン酸ナトリウムを摂取しても、脳、網膜の変化はなく、また成長、発育、繁殖上の異常も認められない等の報告がされている。 1970年米国のNational Academy of Sciences(NAS)及びFAO/WHOの専門委員会でMSGの安全性評価が行われている。

 要は注射等、非経口で大量投与した場合で、マウスの場合も成獣は起き難くなるといっているわけで、WHOなど国際機関は、その様な毒性はねずみ、ラットなどげっ歯類に当てはまり、ヒトには当てはまらない、という立場。

>また、中華料理を食べた人が頭痛、顔面紅潮、体の痺れなどを起こす中華料理症候群の原因と考えられています。
 その後の研究で否定されている。 ただし過敏症のヒトの存在は否定していない。

「米国ボストン近郊の中華料理店で食事をとった際、食後特定の一過性の症状(首から上肢にかけてのしびれ感、全身のだるさ等)が現れたとKwokが報告[Kwok,R.H.:N.Engl.J.Med.278:796(1968)]して以来この名が付いた。その後、本症状はワンタン・スープに多量に使用されたL-グルタミン酸ナトリウムが原因ではないかと疑われ、種々の臨床試験が行われた。L-グルタミン酸ナトリウムによる症状は、空腹時に多量のL-グルタミン酸ナトリウムを食べた後、15~25分を経て一部の過敏なヒトで灼熱感、顔面圧迫感、胸痛が起こり、約1時間以内で治まると報告されている。この症状は主観的かつ一過性のもので、血圧、心拍、心電図、血中グルタミン酸レベルなどの客観的指標上の変化は認められていない。二重盲検法による厳密な検討結果では、3.0~4.4gのグルタミン酸摂取では、発症とMSG摂取との関連は認められていない」
              医薬品情報21

 アメリカではベビーフードへの添加は禁止というのも見かけるがこれもデマで、かつて添加を禁止する様に勧告された事があるというもの。

1969年1月23日、ニクソン大統領の栄養問題担当顧問のメイヤー博士は、全米婦人記者クラブの記者会見で、ベビーフードにはMSGを使用しないよう勧告した。 これがいわゆる「メイヤー勧告」である。 この勧告は、1969年7月にオルニー博士がアメリカ上院の栄養・食品委員会(マクガバン委員会)で行った証言を採用したものであった。 オルニー博士は、“Sciene”1969年5月9日号に発表した、マウス新生仔へのMSG投与(0.5~4mg/g体重を皮下注射)による脳視床部損傷発現という実験果に基づいて、ベビーフードへのMSG使用は中止すべきであると証言したのである。
              味の素グループ100年史

 これによりアメリカのベビーフードメーカーは自主的にベビーフードにグルタミン酸ナトリウムの添加を止めたというもので、禁止されたわけでは無かった。

 >また、2002年に弘前大学医学部の研究チームは、ラットの実験でMSGの過剰摂取が緑内障につながる恐れがあると指摘しています。緑内障は日本における失明の最大原因です。

 これは10%乃至20%のグルタミン酸ナトリウムを加えた餌を食べさせたわけで、非常な高濃度のグルタミン酸ナトリウムを食べさせているわけでヒトには当てはまらないわけだが、郡司センセ、こういう肝心な点は隠しているわけだ。

Diets for Rats – Three week old Lewis rats (female, approximately 150g) were raised either with laboratory diet for rat (MF, Oriental Yeast Co. Ltd, Tokyo, Japan) (diet A, n = 21rats), MF (100g) + 10g of sodium glutamate (Ajinomoto) (diet B, n = 21 rats) or MF (100g) + 20g of sodium glutamate (diet C, n = 21 rats). Each group of 21 rats was subdivided in three groups (seven each) for several analyses as follows. Each subgroup was subjected to electroretinogram (ERG) measurements after 1, 3 or 6 months of diet, and thereafter these rats were killed by CO2 inhalation and eyes were enucleated (vitreous bodies were collected from 10 eyes and the other four eyes were used for mophology studies). MF regular diet is composed of water (7.8g), proteins (23.8g, containing 3.93g of glutamic acid), lipids (5.1g), minerals (6.1g), carbohydrate (54.0g) and fibrous tissues (3.2g).

 そもそも日本人は緑内障になりやすいと言う説も有る。
ある奈良県の眼科医が目について書いたブログ
 緑内障は眼球の眼圧が高いとなりやすいと言われるが、日本では眼圧が正常でも発症するケースが多いとされる。

アメリカの眼科受診患者を対象とした人種ごとの正常眼圧緑内障の有病率でも、
白人0.34%
ラテン系アメリカ人 0.37%
アフリカ系アメリカ人 0.55%
アジア系アメリカ人 0.73%
に対し、
日系アメリカ人1.99%と、この結果からも圧倒的に日本人は正常眼圧緑内障になりやすい体質であることがわかります。

 他に、日本人に緑内障が多いのは、日本人は角膜が薄い、近視が多いなどを挙げている。

 最近では緑内障や、精神神経疾患の原因としてグルタミン酸の伝達に関わるグルタミン酸トランスポーターの異常とする研究がある。
 細胞外のグルタミン酸は神経伝達物質として重要な無く眼を果たすが、濃度が上がると神経毒として作用するため、細胞外のグルタミン酸の濃度はグルタミン酸トランスポーター(グルタミン酸輸送体)の作用で厳密に制御されている。
 グルタミン酸トランスポーターに機能障害があると細胞外のグルタミン酸濃度の制御が出来なくなるため濃度が高くなり、神経毒として振る舞い、それが緑内障や精神神経疾患の原因になるという。
 『グルタミン酸トランスポーター』『グルタミン酸輸送体』『緑内障』『精神神経疾患』をキーワードにして検索すると腐るほどヒットする。
緑内障研究の最前線
グルタミン酸トランスポーターと精神疾患 

いずれにしろ郡司センセはADIを設定しろと主張している様だが、客観的な根拠はないという事である。
ただ、国内外にグルタミン酸ナトリウムを有害と主張する人が多いのは事実。

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