根岸線架線切断事故

 

 8月4日19時15分頃、JR東日本根岸線の横浜~桜木町間で架線切断事故が発生し、その影響で同線に乗り入れる横浜線をはじめ、平行する東海道線・横須賀線も一時運転見合わせとなった。
 事故の状況は、先行電車が桜木町駅に停車していたため当該電車が横浜~桜木町間で一旦停止、その際架線の饋電区間の境目(エアセクション)に停止したため、運転再開時に架線が切断、停電となった。

.                     JR東日本サイトより
 この動画はNHKや日テレなどで放映された視聴者からの動画だが、最初最後尾の車両の中央付近より火花が出て、その後最後尾の乗務員室上部で大きな火花が出た後停電している。
 エアセクションでパンタグラフとトロリー線の間でアーク放電が起きてトロリー線が断線、切れたトロリー線が最後尾の車両に接触して停電となったと思われる。

 エアセクション内での停止は禁止されていて、その旨の標識もあるが見易い訳では無く、特に夜間では見えづらく先行電車に気を取られて停止したのでは無いかと思う 。

 JR東日本管内でのエアセクションによる事故は、2007年6月22日東北本線の、さいたま新都心駅~大宮駅間で、上り普通列車が信号現示に従い停車した際、現場付近に設置されていたセクション外停止位置標よりも手前で停車したため編成後部がエアセクション区間にかかり、架線が切断する事故が発生している。
 その後、JR東は各種の対策を取っていたが、今回の横浜~桜木町間では表示以外の対策は取られていなかった。
エアセクション箇所の架線断線対策について
 今回は電車内に閉じ込められた乗客で具合が悪くなる人が出た程度で大きな人的な被害は出なかったが、以前に同じ桜木町で架線切断事故が起きていて100人を越える死者がでた重大事故が発生している。

 64年前の1951年4月24日13時45分頃、神奈川県横浜市の日本国有鉄道(国鉄)東海道本線支線(通称京浜線、現在は根岸線の一部)桜木町駅構内で発生した列車火災事故である。
昭和のニュース 桜木町事件
 桜木町駅構内の上り線で碍子(がいし)交換工事を行っていた電気工事作業員が誤ってスパナを落とし、上り線の架線が固定されず垂れ下がってしまってい、作業を指揮していた工手長は駅の信号扱い所に向かい信号係に、「架線事故が起きたので上り線に電車を入れないでくれ」と告げたされる。
 当時の桜木町は終端駅で、上り本線側と下り本線側にホームが有り、渡り線で交互に着発が可能で有った。
 工手長の伝え方が悪かったか信号係が聞き違えたのかは今になっては判らないが、『上り線への着発は不可』というのが『上り線からの発車は不可だが到着は可能』と受け取ってしまった。
 そのため折から到着した下り電車のパンタグラフに架線が絡まり、運転士はパンタグラフを下げようとしたが破損したパンタグラフが車両と接触し、短絡が発生し出火した。
 屋根の可燃性塗料に引火し木製の屋根が炎上し、先頭のモハ63756が全焼、2両目のサハ78144が半焼して焼死者106人・重軽傷者92人を出す惨事となった。
 通常架線の饋電は2カ所の変電所から行い、当該区間は横浜変電所と鶴見変電所から起電していて、事故発生時に横浜変電所は高速度遮断器がトリップし饋電を停止できたが、鶴見変電所の高速度遮断器は作動せず、約5分に渡って架線に電気が流れたままになったことも火勢を強めたとされている。

 モハ63系電車はいわゆる戦時設計により製造された車両であり、可燃性の塗料やベニヤ板の天井内張りなど燃焼性の高い材料が多用されていて、通常は絶縁被覆と防護鋼管で覆われているべき室外配線を碍子支持の裸電線としていたり、一部の引き通し線を化粧板覆いもなく室内に露出させていたりするなど、電気配線の絶縁の質が劣悪な設計で、このような電流短絡事故の際に必要な保安機器の一部も省略されていて、防災対策は無いに等しい状況だった。
 窓に関しては、通風改善とガラス不足対策のために3段式の窓になっていて、中段は固定で上下段のみ可動となっていたため窓からの非難は無理な状況で有った。
 貫通部のドアも近距離輸送が対象だったため、乗客がここを通る事は想定されていなく、ドアも現在の様な引き戸では無く内開きとなっていて、ここに乗客が殺到すると開く事が不可能だった。
 ドアを手動で操作するドアコックも社内の各ドア付近に設置してあったが、ドアコックの存在を知らせる表示等は無く、操作して脱出はできなかった。
 また、車両の外部にもドアを手動で開けるようにドアコックが設置してあったが、運転士はそれを失念し2両目の切り離し等の作業に当たってしまった。
 重大事故に単独の原因は無いと言われる。
 歴史に『たら』は無いと言われるが、

  • 工手長と信号係がコミュケーションをしっかりとり、『上り線の着発は不可』というのを徹底したら
  • 車両がボロ電車でなかったら
  • 運転士が車外のドアコックの存在を失念していなかったら
  • 鶴見変電所の高速度遮断機もトリップしていたら

 もしこれらのどれか一つでも無かったら、事故そのものが無かったり、発生してもこれほど大きな被害にはならなかったであろう。

 今 回の事故は原因は異なるが、同じ架線事故だった。
 色々な不手際は見受けられるが、人的な被害が無かったのがなりよりである。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

この記事へのコメントはこちら

メールアドレスは公開されませんのでご安心ください。
また、* が付いている欄は必須項目となりますので、必ずご記入をお願いします。

内容に問題なければ、下記の「コメント送信」ボタンを押してください。

CAPTCHA