グーグル検索のトップにビジネスジャーナルの馬鹿記事が・・・

 

 グーグルで牛乳を検索すると、突如トップに牛乳は危険という検索結果が表示され騒ぎとなっていた。
 牛乳は超危険!子供は絶対NG!がん・糖尿病・脳梗塞・心筋梗塞の恐れ  
 突如、ビジネスジャーナルの馬鹿記事がトップに表示されるようになっていた。(現在は表示されなくなっている)
 この記事は編集部が書いていることになっているが、トンデモ系の南清貴センセのコメントを引用しているから、トンデモの内容になっている。

 もともと、日本人は牛乳を飲みませんでした。世界的に見ても、1930年以前は今ほど牛乳を飲んでいなかったのです。牛乳を多量に飲むようになった背景には、化学肥料を使うことによって、一時的にではありますが、小麦が大量に収穫できるようになったことがあります。豊作になったため、余剰の小麦が牛の餌として使われたという事情があるのです。

 >もともと、日本人は牛乳を飲みませんでした。
 殺菌が義務づけられるくらいだから、牛乳は普及していたと思われる。

 ブリキでできた輸送缶の時代を経て、明治20(1887)年頃からは、ビン詰めでの宅配に変化してきました。初期の牛乳ビンは口の長い、色の付いたガラスビンで、木や紙、綿などで栓をしたものでした。この頃まで、牛乳と言えば、しぼったままの、いわゆる生乳でした。明治30(1897)年代に王冠や陶器製の栓が登場すると、ビンごと熱湯につけて殺菌するようになります。ただし当時の処理技術では賞味期限も短く、朝と夕、1日に2度配達するようなケースも多かったようです。 昭和2(1927)年には、初めて牛乳の殺菌処理が義務づけられ、同時に牛乳ビンの統一が図られました。おなじみの広口の無色透明ビンの登場です。戦前・戦時中は物資不足のため有色ビンが復活しますが、戦後になってまた透明の牛乳ビンになります。
全国牛乳流通改善協会 牛乳配達の歴史編  

 もっとも、日本の場合、生乳は保存が利かないため、牛乳より練乳としての利用が多かった。
 日本練乳製造業の経営史的研究  

 >世界的に見ても、1930年以前は今ほど牛乳を飲んでいなかったのです。
 そんなことはない。
 独立行政法人農畜産業振興機構の資料によると、1910代以降のアメリカの一人あたりの消費量が一番少ないのが1910年代後半で、年間の一人あたりの消費量は約43kg。
 米国における乳製品の消費動向と乳業の構造変化の動き(図4)
 日本の一人あたりの消費量のピークは1996年で、消費量は41.6kgであり、アメリカで消費が落ち込んだ1910年代後半の消費量に達していない。
 一般社団法人中央酪農会議/消費の現状 

 「日本の牛乳消費量は年間約350万キロリットル(13年)で、最も多かった1996年の約505万キロリットルと比べると、17年間で約155万キロリットル減少しています。これにはさまざまな理由があると思いますが、『牛乳は完全栄養食品だ』という、いわゆる『牛乳神話』が崩れ去ったことも一因だと思います。

 炭酸飲料などの清涼飲料水に需要が移行したとみるのが妥当であろう。
 一般社団法人全国清涼飲料連合会、清涼飲料水品目別生産量推移(1997年~2016年)

 しかし、牛乳の脂肪の主体は飽和脂肪酸です。それを過剰に摂取すると、血液の粘度が上がってしまい血液循環が悪くなります。また、それが原因で脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしてしまう可能性も高まります。さらに、血中のコレステロールや中性脂肪を増やし、糖尿病や肥満、高脂血症などの生活習慣病にかかりやすくなるリスクもあります」(南氏)

 文部科学省の食品成分データベースによると、普通牛乳の飽和脂肪酸は100gあたり2.33gで、大量の牛乳のがぶ飲みを続けない限り問題ない量であろう。

 「確かに、牛乳には1リットル中1200ミリグラムのカルシウムが入っていますが、それが必ずしも人間の体に吸収されて役に立っているかというと、疑問です。カルシウムが体内で代謝されるためにはマグネシウムというミネラルが必要ですが、牛乳にはマグネシウムがほとんど含まれていないからです。
 つまり、牛乳はカルシウムとマグネシウムの含有比率が悪いため、大量に摂取すると体内のミネラルバランスを大きく崩す可能性が考えられます。そんな牛乳が、なぜ完全栄養食品といわれるのか、疑問は深まります。

 
 マグネシウムの量が少ないのは間違いなく、牛乳しか摂取しないのであれば問題であろうが、現実には他の食品も摂取しているわけで、牛乳のマグネシウム不足が問題になる訳ではない。
 また、乳業の団体でさえ最近は牛乳を「完全栄養食品」と言っていない。

 もうひとつ問題なのは、牛乳にはリンというミネラルが多く含まれていることです。そのリンが腸の中でカルシウムと結合してしまい、カルシウムの吸収を阻害します。

 食品のリンとカルシウムのの比率は1:1~2:1が最も良いとされている。
 公益財団法人骨粗鬆症財団 Q&A 
 牛乳の栄養成分をみると、カルシウムとリンの比率はほぼ1でありバランスが良い食品となる。
 また、牛乳のカルシウムの吸収は良いとの研究もある。
 日本人若年成人女性における牛乳,小魚(ワカサギ,イワシ),野菜(コマツナ,モロヘイヤ,オカヒジキ)のカルシウム吸収率 
 この研究は、摂取したカルシウムと、便や尿に排泄されるカルシウムの収支からカルシウムの吸収率を調査したもので、精度の良い研究である。
 この研究によると、カルシウム吸収率は牛乳39.8%,小魚32.9%,野菜19.2%となっていて、牛乳のカルシウム吸収率は良い事になる。

 さらに、牛乳には動物性たんぱく質も多く含まれていますが、たんぱく質は消化器内で分解されてアミノ酸になります。体内でのアミノ酸の量が過剰になると血液が酸性に傾き、それを中和するために、体は骨の中のカルシウムを溶かして血液中に送り込む作業をします。これは『脱灰(だっかい)』といい、骨粗鬆症の初期段階です」(同)

 確かに前出の骨粗鬆財団のにも、たんぱく質で1日80グラム以上、食塩10グラム以上など、摂りすぎるとカルシウムを尿の中に出してしまうとの記述がある。
 牛乳の成分をみると、タンパク質は牛乳100gあたり3.3gとなっている。
 牛乳でタンパク質80gを摂取するには
 80/3.3=24.2
 100g*24.2=2420g
 牛乳の比重は約1.03といわれているから、 
 2420/1.03=2349mL
 約2.4リットル以上の牛乳を飲むと危険かもしれない。

 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」にも、タンパク質の過剰摂取にふれている。

 たんぱく質エネルギー比率が 20% エネルギーを超えた場合の健康障害として、糖尿病発症リスクの増加、心血管疾患の増加、がんの発症率の増加、骨量の減少、BMI の増加などが挙げられる。
 たんぱく質と糖尿病発症リスクとの関係を認めた研究並びに、最近の系統的レビューでは、これらのどの事象についても明らかな関連を結論することはできないとしながら、たんぱく質エネルギー比率が 20% エネルギーを超えた場合の安全 性は確認できないと述べ、注意を喚起している。

 平成27年国民健康・栄養調査報告によると、男(20-29歳)の摂取エネルギーは2222kcal、女(20-29歳)1706kcalとなっている。
 栄養素等摂取状況調査の結果 
 それに基づいて総エネルギーの20%を牛乳で摂取するには
 2222kcalのエネルギーを摂取する男(20-29歳)の場合
 2222*0.2=444kcal
 タンパク質の熱量:4kcal=1g 
 444lcalのタンパク質の重量:444/4=111g 
 牛乳のタンパク質の量:100gあたり3.3g
 111gのタンパク質の牛乳
 111/3.3=33.6
 100*33.6=3360g
 牛乳の比重:1.03
 3360/1.03=3262.1mL
 牛乳だけ約3.2リットル以上飲んだ場合の安全性は確認できないということになる。
 同様に1706kcalのエネルギーを摂取する女(20-29歳)の場合は、約2.5リットル以上の牛乳を飲んだ場合ということになりますね。
 ちなみに中サイズの殻付き卵は約55gで、卵の可食部100gのタンパク質は12.3gであり、卵1個を食えば牛乳200mLのタンパク質とほぼ同じタンパク質の量となる。
 タンパク質の摂取量を考えるとき、牛乳だけをとやかくするのはナンセンス。
  

 それだけでも大変な問題ですが、もっと深刻なのは、効率よく搾乳するために乳牛を妊娠させ続けているということです。哺乳類は、妊娠中は胎児を守るためにエストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)などの女性ホルモンの値が高くなります。
 その女性ホルモンも、牛乳の中に混じってしまうのですが、乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がんなどを引き起こす可能性が高いのです。日本の場合、生産される牛乳の7割以上が妊娠中の乳牛から搾乳したものです。『そんな牛乳が、子供たちの体にいいわけがない』というのが、牛乳に否定的な意見を持つ人たちの総意です。

 牛乳中の性ホルモンの影響に関する研究は多い。
 仮説「前思春期の牛乳飲用によって生殖能力(妊孕力)が低下する」の検証 

 1 牛乳中の女性ホルモンの測定
 市販牛乳(妊娠牛が泌乳)とモンゴル牛乳(非妊娠牛が泌乳)中の女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)を測定した。市販牛乳には女性ホルモンが多く含まれていた。モンゴル牛乳に比べると、抱合型エストロン(経口的に生理活性が高い)濃度はほぼ2倍、プロゲステロン濃度はおよそ10倍であった。1日の牛乳摂取量を300mlとすると、日本人は1日にほぼ100ngの抱合型エストロンと100mgのプロゲステロンを摂取していることになる。
 2 2世代生殖試験
 方法:米国EPAのガイドラインにしたがって、牛乳のラットの生殖行動に与える影響を観察した。まず、グルテン(リジン、バリン、スレオニン、メチオニン添加)、ココナッツオイル、乳糖を主成分とする牛乳と等カロリーの人工乳を作った。粉末飼料と牛乳(あるいは人工乳)を3:4(重量比)とする特別食を作りラットに与えた。雌雄各24匹を親世代(F0)とし、2世代にわたって(F1とF2)、月経周期(雌)、交尾率、妊娠率、出産率、一腹の出産胎仔数、性比、生存仔数、死産仔数、奇形仔数、肛門-生殖器間距離、膣開口(雌)と包皮分離(雄)、生殖器重量、精子数(雄)、精子運動能(雄)などを観察した。
結果と考察:ほとんどの観察指標において実験群(牛乳群)と対照群(人工乳群)の間に有意の差を認めなかった。しかし、牛乳群のF0の雌22匹のうち5匹が死産仔を出産した(対照群は22匹中1匹)。牛乳群に自然発生の稀な短尾奇形が3匹(F1に1匹、F2に2匹)生まれた(対照群には0)。また、F2雌の肛門-生殖器間距離が有意に短縮した。以上の結果から、牛乳に生殖毒性があるとはいう結論を導くことはできないが、生殖毒性がないという結論も導くことはできない。再実験が必要である。

「牛乳に生殖毒性があるとはいう結論を導くことはできないが、生殖毒性がないという結論も導くことはできない。」というグレーな結果となっている。

 だだし、前提条件の「1日の牛乳摂取量を300mlとすると、日本人は1日にほぼ100ngの抱合型エストロンと100mgのプロゲステロンを摂取していることになる。」の部分は大いに疑問である。
 食品安全委員会が2004年に市販の牛乳の性ホルモン含有量の調査結果を発表している。
 市販牛乳及び脱脂粉乳中における牛の性ホルモンの含有量実態調査調査分  
 この調査によると100サンプル中のエストロゲン(17α及び17β-エストラジオール,エストロン,エストリオールの合計量)は、0.005~0.023 ng/gであり、全平均は0.012 ng/gであった。
 100サンプル中のプロゲステロンは7.3~29ng/gを示し,全平均は17 ng/gであった。
 また精密測定をした30サンプル中、17α及び17β-エストラジオール、エストリオールはいずれも検出限界以下(0.005ng/g)であり、エストロンは0.006~0.021ng/g、平均で0.0136ng/gであった。
 おなじく30サンプルのエストロン硫酸抱合体は、0.038~0.14ng/g、平均値は0.0873ng/gであった。
 17α-エストラジオールグルクロン酸抱合体は、30サンプル中検出限界以下が3サンプル、0.006~0.02ng/g、平均0.0123ng/gであった。
 17β-エストラジオールグルクロン酸抱合体は全数検出限界以下であった。

 この結果から300mLの牛乳に含まれる抱合型エストロンと100mgのプロゲステロンは次の通り。
 牛乳300gは 300g≒300mLとして 
 抱合型エストロンとプロゲステロンは、食品安全委員会の調査の最大値を使用
 抱合型エストロン:0.14*300=42ng
 抱合型エストロン:29*300=8700ng=8.7mg
 となる。
 佐藤らの研究だと、300mLの牛乳の抱合型エストロンは100ngとなっていて、そもそもサンプルが違う以上この程度は誤差といえるが、プロゲステロン100mgはあまりにも違いすぎている。
 何かの間違いか?

 山梨大学の丸山らの研究も、牛乳の日常的な摂取は、小児の身体熟成に影響する可能性があるとしている。
 牛乳摂取量と思春期前小児の身体成熟との関連 

 一方、牛乳に含まれる性ホルモンは、血中濃度や生殖健康に影響しないという研究もある。
 アメリカ酪農科学会(ADSA)が発行しているJournal of Dairy Scienceの2016年8月号に、Effect of dietary estrogens from bovine milk on blood hormone levels and reproductive organs in mice「牛乳由来のエストロゲンがマウスの血液ホルモン濃度および生殖器官に及ぼす影響」が掲載されている。
 Effect of dietary estrogens from bovine milk on blood hormone levels and reproductive organs in mice 
 この研究はスロベニアのリュブリャナ大学の研究チームによって行われ、未処置の雄のマウス30匹と、卵巣を摘出した雌のマウス30匹を用いて行われた。
 処置群として雄、雌各6匹、合計12匹を1グループとして3グループ、対照群として雄、雌各12匹、合計24匹にグループ分けして実施された。
 処置群の第1グループには、エストロン(E1)および17β-エストラジオール(E2)をそれぞれ0.093および0.065ng/mL含む牛乳を、第2グループにはE1およびE2を10ng/mL添加した牛乳を、第3グループにはE1およびE2を100ng/mL添加した牛乳を、毎日4mL与え、対照群には牛乳を与えなかった。
 8日後に解剖し、血液を採取、子宮、精巣、精嚢の重量を測定した。
 結果として、100ng/mLのE1およびE2を投与した第3グループのみ、雌のマウスの子宮重量の増加、雄のマウスで血漿テストステロン(男性ホルモンの1種)の低下、雄雌とも血漿エストロゲンの上昇を確認した。
 その他のグループでは血漿E1および血漿E2に影響しない事を実証したとしている。
 第3グループのエストロゲンの濃度は、通常見られる濃度よりも1000倍高く、自然の牛乳では決してあり得ないものであるとしている。
 この研究では、胃腸系および肝臓系が大量のエストロゲンを身体の他の部分に到達する前に不活性化することが可能であることが示されており、この理由からミルク中の天然エストロゲンがマウスにほとんど影響を与えないように思われるとしている。

 牛乳に含まれる性ホルモンの健康への影響は、影響ありとする研究と、影響はないとする研究があるが、個人的にはドイツ連邦リスクアセスメント研究所の見解が最も現実的と考える。

 ホルモン濃度による健康リスクは乳の消費と関係しているのか?

 乳の一日摂取量(ヨーグルトを含む)200~250gで摂取するホルモン量は、ヒトでのホルモン産生量に比べるとかなり低いと推定される。
 さらに、ホルモンはとても速く代謝される(経口摂取での肝臓の「初回通過」効果が顕著である)。
 入手可能な科学的データからは、現在何らかの健康リスクを想定する理由はない。

国立医薬品食品衛生研究所 食品安全情報(化学物質)No.14/2014(2014.07.09)

 牛乳しか摂取しないというのならこの記事の通りかもしれないが、数ある食品の1種類と考えバランス良く摂取すれば、1日に1~2杯程度の牛乳の摂取で健康に悪影響を与えるとは考えがたい。
 この手のジャーナリズムやジャーナリストは、食品等が危険でないと売り上げにつながらないという現実があるが、ビジネスジャーナルの科学的リテラシーの低さを表しているような記事である。
 それにしても、なんでこの記事がグーグルの牛乳の検索でトップに来たのか、そちらの方が大いに興味がわく。

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