文春砲?? この記事、変だよ「食肉」

 

 文春オンラインに『「ホルモン漬けアメリカ産牛肉」が乳がん、前立腺がんを引き起こすリスク』とい記事がある。
 この記事、よく読むとかなり怪しい。

 日本とアメリカのホルモン依存性がんのデータを比較すると、アメリカは年を重ねるごとに増えているのに、なぜか日本では40代50代で腰折れ的に減っている。

 細胞が悪性腫瘍になるまで20年、30年とかかる。では、40代50代の方たちの食生活が30年ぐらい前にどう変わったかを考えた時、アメリカからの輸入牛肉に思い当たったという。
 日本では70年代から牛肉の輸入が増加し、その頃からハンバーガーも食べ始めた。

 そこで半田康医師(北海道大学遺伝子病制御研究所客員研究員)を筆頭に、藤田医師を含めて8人の研究者が牛肉に含まれているエストロゲン(女性ホルモン)の濃度を調べた。藤田医師によれば、これらの牛肉は「札幌市内のあるスーパーマーケットで売っていた肉」だという。

 下記のグラフは文春オンラインのキャプチャ画像

 このグラフがいつの時点のデータかは書いてないが、確かに40~50歳くらいから頭打ちになっている。
 つまりこのデータにピークがでるのは、輸入牛肉を多く食べ始めた人達がこの年齢にさしかかっているためというわけだろう。

 世界保健機関(WHO)の外部組織に国際ガン研究機関(IARC)がある。 
 IARCのデータによると、一番古い日本のデータ(1988年)乳がんの年齢別罹患率は次の通り。

 これを見ると、確かに45歳くらいにピークがあり、それ以上は凸凹はあるが減少傾向である。
 文春の記事の通りであればさらに時代が下がり、輸入牛肉を多く食べ始めた人が高齢化すれば、罹患率のピークは高い方に移行するはずである。
 次のグラフはさらに20年後の、IARCのデータとしては最新の2007年の乳癌の年齢別罹患率である。

 グラフに凸凹はあるものの、45歳くらいから急に頭打ちとなっていて、1988年のグラフと同じ傾向である。

 次のグラフはアメリカ、オーストラリアなど食肉に成長ホルモンの使用を認めている国と日本の、乳癌罹患率の年次推移データである。

 日本以外は1995年前後頃から頭打ち傾向である。
 欧州では1988年に畜産生産に成長ホルモンの使用を禁止し、1989年1月からは成長ホルモンを使用した食肉の輸入を禁止した。
 農畜産業振興機構 WTOが成長ホルモン使用食肉の輸入禁止措置を違反と報告 (EU)
 食肉の成長ホルモンが乳癌の罹患に影響しているなら、1990年頃から欧州の乳癌の罹患率は優位に減少傾向となるはずである。
 次のグラフは欧州と日本の乳癌罹患率の年次推移データである。

 これによると成長ホルモンの全面的に使用禁止した1989年以降も、大きな変化は無く、むしろ成長ホルモンの使用を認めているアメリカなどの方が頭打ち傾向となっている。
 少なくともIARCのデータを見る限り、食肉の成長ホルモンが乳癌などの原因と断定するには無理がある。

 次のグラフも文春オンラインのキャプチャ画像である。

 「エストロゲンはホルモン依存性がんの危険因子だという事は、今や教科書レベルの話です」と半田医師が言うように、がんと密接に関係しているからである。
 エストロゲンががん化に関わっているとする論文はたくさんある。
 実際に日本人の牛肉消費量とホルモン依存性がんの発生数が比例していることを見ても明らかだろう。

 >実際に日本人の牛肉消費量とホルモン依存性がんの発生数が比例していることを見ても明らかだろう。
 このグラフは食肉消費量とホルモン依存性がんの発生数の相関関係を表しているだけであり、食肉中の成長ホルモンとがんの因果関係を表しているわけでは無い。
 あくまでも食肉の消費量が増えたらホルモン依存性がんが増えたという事実しかわからない。
 成長ホルモンの影響ではなく、他の要因が原因である可能性も大いにあり得る訳である。

 食品とがんの関連に関しては、食生活の変化という説もある。
  世界各国におけるがんの罹患率・死亡率と、食事を含む環境要因との関連について 

 がんには種々の部位があるが,全般的に,植物性食品の消費ががんの抑制に,動物性食品の消費ががんのリスク増大に関連していた。

 乳がんは,総脂肪,動物性脂肪,肉,牛乳,砂糖,と有意な正相関を示し,一方穀類と負の相関を示した。
 メカニズムの面からは,これらのいわゆる西欧型の食事は,発育を早め,閉経を遅らし,肥満をもたらし,女性ホルモンへのばくろを高めると考えられる。

 乳がんと同様,いわゆる西欧型の食品消費は,結腸がんのリスク増大,さらに前立腺がん,子宮体がんのリスク増大と関連していた。
 結腸がんについては,肉食が発がんプロモーターである胆汁酸の分泌を促進し,また変異原性物質を産生することが知られている。
 肥満が子宮体がんのリスクを高めることも明らかである。

 要は、欧米型の食事が乳がん、前立腺がん、子宮体がんなどのリスクを高めるという研究である。

 食事ががんに関連するという研究は多い。
 食物繊維摂取量と乳がんとの関連について 
 食物繊維の摂取量が多いと、乳がんのリスクが下がるという研究。

 食事パターンと乳がんリスクとの関連について
 欧米型食事パターンのスコアが高いほど、ホルモン依存性の乳がんリスクが高くなりやすいという研究。

 魚、n-3及びn-6不飽和脂肪酸摂取量と乳がんとの関連について  
 「n-6不飽和脂肪酸」の摂取量が多いほど、ホルモン依存性の乳がんリスクが高くなりやすいという研究。

 飲酒と乳がん罹患との関係について 
 エタノ-ル摂取量が多いほど、乳がんになりやすいという研究。

 等々、飲食の内容がホルモン依存性がんのリスクを高くするという研究、論文は多い。
 食肉中の成長ホルモンが原因と言うより、日本人の食生活が欧米型に近づいたのが原因と考えた方が妥当な気がする。
 いずれにしろ、この週刊文春の記事は非常に偏った記事というか、煽り記事としか言い様がない。

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