新幹線、台車枠破断事故

   2017/12/29

 12月11日に博多発東京行き「のぞみ34号」が、異音や異臭のため名古屋駅で車両点検を行ったところ、13号車の台車のギアボックス付近で油漏れが確認され運休、その後の点検で台車枠に亀裂が入っていることが確認された。

 JR西日本が公表した資料によると
 ・小倉駅発車時(13:50)、客室乗務員の7,8号車付近で焦げたように臭いがするとの申告があり、車掌が車内点検、その旨を東京指令書の指令員に報告。
 ・14:30頃、司令員が岡山支所に車両保守担当者の出動を指示。
 ・福山~岡山間を走行中、パーサーが乗客より13号車車内にモヤがかかっているとの申告があり、報告を受けた車掌長が司令員に報告。
 ・岡山駅から添乗した車両保守担当者が確認したところ、13,14号車間でうなり音を確認したが、司令員とのやりとりの結果、司令員が走行に支障をする音では無いと認識、運転を継続。
 ・車掌は、においがしたりしなかったりとの状況のため、運転に支障ある状況とは認識していなかった。

 新聞報道によると、新大阪駅でJR東海の乗務員に引き継ぐ際に、「異臭があったが運行に問題はない」と報告していたという。
 その後、JR東海の乗務員が、京都駅を発車後異臭がしたと報告し、名古屋駅での車両点検となった。

 台車枠の損傷は、横梁の底面約160mm、側面140mmで、後30mmで横梁が完全に破断するという深刻な状況であった。
 万一破断していれば車輪やモーターなどが滑落し、脱線の可能性もある状況であった。

 図中の緑の部品がモーター、青が継ぎ手、黄色が歯車箱、ピンクが車輪である。
 実際の横梁の亀裂の画像はつぎのとおりで、非常に深刻な状況であったことが判る。

 この破断箇所は溶接した箇所ではなく、横梁自体の強度に問題があったのではないかと思われる。
 設計ミスなどの様な組織的な不具合なのか、単発的な不具合なのかということになるが、JR各社の新幹線車両の総点検で他では異常がみつかっていなく、おそらく素材の成分などのムラなどによる単発的な不具合ではないかと思われる。

 どの様な製品であれ、絶対に不具合を出さないというのは不可能だが、異常が発見された場合の対応が問題となる。
 新聞の報道では、岡山から添乗した車両保守担当者は異常音を確認、次の駅で停車し点検する必要があると判断したという事である。
 司令員が運転継続を決定したとのことであるが、司令員の独断であったのか、保守担当者→乗務員→指令員との連絡の途中で伝言ゲームになり、結果として判断を誤ったのかは、現時点での情報では不明である。
 JRの公開資料に『車掌は、においがしたりしなかったりとの状況のため、運転に支障ある状況とは認識していなかった。』とあることから、車掌の報告が「大した事は無い」というニュアンスになった可能性もあり得る。
 しかし結果として、JR西日本の指令は運転を継続、JR東海の指令は車両点検の判断となり、結果としてJR東海の判断が重大事故を防止することになった。
 この件は、国の運輸安全委員会が重大インシデントとして認定していて、その調査により何処に問題があったかは判明するであろう。
 どの段階で、現場の担当者の判断が無視される形となったかの検証は必要である。

 当初、N700A系の車両は台車振動検出システムがあり、なぜ運転士が気がつかなかったのかと思っていた。
 最初からN700A系として製造された車両には台車振動検出システムが搭載されていたが、N700系からの改造車には搭載されていなかった。
 この事故の発生した車両は当初はN700系として製造され、その後N700A系に改造された車両であり、台車振動検出システムは搭載されていない訳で、この点の疑問は解決した。
 東海道・山陽新幹線車両N700系の改造工事完遂について  
JR西日本によると、N700A改造車にも今後台車振動検出システムを搭載してゆくとのことである。

 ちなみに、N700A系車両とN700系改造車の違いはロゴマークでわかる。
 N700AのAが大きい方(左側)がN700Aとして製造された車両で、Aの小さい方(右側)がN700系からの改造車である。

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 12月11日の保守担当社員と、指令のやりとりの内容が少しづつ判ってきた。
 新聞報道などによると次の通り

報道等によると、保守担当社員とやりとりしている最中に指令長から状況報告を命令され、受話器を外してしまったため「車両点検をしたほうがよい」との肝心な部分を聞き逃したのが直接の原因と思われる。
 指令に対し、保守担当Aは「床下点検をしようか」
 指令の走行に支障があるかの問いに、保守担当Bは「(車両点検をしたわけではないから)判断できない」。「通常と違う状態なのは間違いない」等、正常では無いということを訴えていたわけである。
 このやりとりが正しい内容だとすれば、保守担当社員はどこで車両点検をするか検討していると誤認してもやむを得ない様な気がする。
 JR西日本は否定しているが、運行管理者としては遅延や運休を避けたいとの思いはあり得ると思う。
 指令と保守担当の情報の伝達不足で、結果として管理者が現場の声を無視したと非難されても仕方が無いケースという気がする。

 実際のところは運輸安全委員会の調査結果をみないとわからないが・・・・。

 12月29日追加

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